[ML談義」 トレーサーなしで玉型加工を勧める量販メガネ店

HOYAのIDは世界最高のレンズだと

岡本
「また玉型加工に歪みがいっぱい」の話を眼鏡技術者のナマの声」サイトに2008年の秋に掲載したところ、2009年の1月19日に下記のメール投稿がきました。
(投稿者の名前は明記されていません。)

この度はお世話になります。
インターネットで『眼鏡』関連の検索をしていたところ、『眼鏡技術者のナマの声』というサイトに出会い、興味深く読ませて頂きました。       

それで、「また玉型加工でレンズにひずみが」の件で、半年前まで私はパリミキ(メガネの三城)に勤務していましたので、ある程度のことが分かりますので、今更ご説明するまでもないかと思いますが、メールさせて頂いた次第です。

まず、ミキ(三城)ではHOYAのIDは世界最高の累進レンズとされていて、販売したスタッフにはポイントが付くようになっています。そのため、累進レンズ希望のお客様全員にIDを装用して頂きますし、IDのセールストークも勉強させられます。

それほど力を入れているにもかかわらず、各店舗にはメーカーと結ぶトレーサー(岡本註:枠のリムの内側をなぞって、玉型を立体的に正確に測定する器械)は設置されていませんので、IDの注文は専用用紙に記入してFAXで行なうのです。

フレームの玉型はデモレンズを外してペンで専用用紙になぞり、記入します。
ですから、そのフレームのカーブは分からないまま、HOYAはレンズを製作していますから、レンズのヤゲンカーブとフレームカーブが合わないメガネになってしまうのです。

トレーサーの設置費用はメーカーか小売店かどちらが負担するのかは分かりませんが、ミキ(三城)は、設備にはなかなかお金を掛けません。
パターンレスの導入は1割程度。対面式検査機器は5割程度です。今回の件で必要に感じる歪み計(それに類するモノ)が置いてある店舗はありません。

玉型加工されて納品したレンズのサイズが大きい場合、大抵は手摺りをするのでしょうが、この事例では「安易に楽をした」「面倒だった」または「技術が無かった」「自信が無かった」といったところでしょう。

ミキ(三城)全店の手摺り機には、玉摺り機と同じ溝が付いていますのでガラスレンズの頂角を取る時の要領で、強度マイナスレンズでもヤゲンが不細工にならず削ることができますが、それをやらなかったのでしょう。

いずれにしましても、高額な商品を購入してもらったにもかかわらず、こんな未熟な調整で、大切なメガネを台無しにしてしまって、元社員と言えども心痛み、その客様がとてもお気の毒です。

ただ、なぜ、そのお客様はパリミキで受け取ったメガネが不調だった時に、まず、そのお店に相談をされなかったのかは疑問に感じました。

岡本
それで、原さんにお尋ねします。あのお客様はミキさんにはご相談にはならなかったのでしょうか。


このお客様は、何度か調整に行ったけども、ダメだった……と記憶しております。
それにしても、トレーサーなしで玉型加工を受け付けるとは信じられないですね。

なぜトレーサーを置かない?

岡本
たまにしか玉型加工のレンズを販売しないのであればともかく、一番のおすすめの累進レンズがあって、それは玉型加工しか受けないレンズだ、ということであれば、トレーサーを設置するのが当然のように思いますが……。

まあ、ミキさんの場合、株を公開していることもあり、営業利益の率を上げるために経費節減でトレーサー設置を控えておられるのでしょう。

この投稿者には原さんのお答えを伝えておきます。(メールでそのことを投稿者に伝えましたが返事は来ませんでした)

それと、現役のミキの社員である若井さんにお尋ねしたいのですが、上記の元ミキの社員のかたの記述の中に、若井さんから見て「少し違うな」と思われるところはないでしょうか。

それと、ホヤのIDを推奨販売するためにIDのテストレンズで装用テストをする場に、同じ加入度、同じ累進部の長さの、ほかの累進のテストレンズで見た場合との比較はしない場合が多いのでしょうか。

若井
元ミキ社員の話については、概ね違っていると思うところはありませんが、細かい部分だけ違う部分を挙げます。

HOYAのIDを販売したスタッフにポイントがつくというのは、全社で統一して行なっていることではありません。
地方によってそれを行っているところもあればそうでないところもあります。
また地方によってルールが違っていたりします。

地方によってというのは、ミキでは全国をいくつかの営業エリアごとに分けられていますので、そのエリア単位ごとという意味です。

たとえば当方の県のエリアでは、IDだけではなくSEIKOのスーパーP-1を販売してもポイントがついたりしますし、単焦点の非球面レンズを販売してもポイントがつきます。
そしてそのポイントが多い人ほど半期ごと行われる人事考課の評価が高くなりやすいということです。

それから、トレーサー設置の件ですが、確かトレーサーが設置されている店舗は無いと思います。(私が知らない店ではあるところもあるかもしれませんが)

IDの注文については上記の通りFAX注文をする場合(ナイロール枠、2ポイント枠)
のほかに、フレームをHOYAの工場に送りトレースをしてもらい注文する場合(フル
リム枠)の2種類があります。

それと、設備にお金をかけないということに関しては合っています。
機械類に関して修理等の申請を出そうものなら本部の機械担当に相当にイヤミな感じでお小言を言われます。機械担当が言うには「全国に店があるんだから一店一店にお金はかけられない」ということです。 その理由からか新しい機械類は売上高が大きい店舗からの設置ということになります。

歪み計またはそれに類するモノがおいてある店舗が全くないということはありません。
少なくとも私が現在勤務している店には置いてありますし、昨年10月までいた店舗にもありました。

なお、IDのテストレンズと他の累進テストレンズでの比較については、しない場合が多いということはありません。
むしろ比較をしないと勧めるにしても勧められないのが普通です。

どのようにしましても、ミキの店舗が全国にあり、各店ごとどのように営業しているかということについては全部がわからないというのが現状だと思います。

とにかく単価アップを!

岡本
そうすると、【たとえば弱度近視の単焦点の場合でも、非球面を販売したら(要するに、ユーザーにとって意味があってもなくても単価アップができたら)ポイントがつくのですね。】a

それと、歪み計を設置しなくとも、見本の偏光レンズが一枚あれば、あとは液晶画面を背景にして、枠入れされたレンズの歪みは見れるのですから、そういう指導を上のほうから現場にすればよいと思います。

そうしたら、玉型加工で送られてきたレンズを追い摺りなしで枠に入れてしまうということはなくなるでしょう。

それから、IDのテストレンズと他の累進テストレンズでの比較をなさるというのは、それは若井さんが良心的な人間だから、ということかもしれません。

別の安い累進レンズとの比較をどの人にも必ず見せて、大半の人に「特に違いはない」と言われて高い累進が売れなくなってしまう、ということを避けるために、高い累進のテストレンズだけを見せる販売員が、実際のところ多いのではないかと私は想像します。あくまでも想像ですけどね。

球面設計での問題はなさそうな人に非球面を勧めるときでも、単焦点の球面設計と非球面設計とのテストレンズでの比較なんてのも、やらないで、非球面を推奨販売するわけでしょう。

とにかく、「単価アップ」が上からの至上命令なのですよね。

会社の首脳陣としても、客数減を単価アップでカバーしないとどうしようもない、それ以外に売り上げ減に対抗する手段というか、いま勢いが強いワンプライスメガネ店に対抗する有効な方法を考えつかないのでしょう。

それで、若井さんご自身は、【高額の累進と普及型の累進の両方をテストレンズでお客さんに見てもらうのですね。 その場合、反応はどうでしょうか? 高額の方を選ばれるかたは、何割くらいおられますか?】b

若井
【 】aについては、そういうことになります。
歪み計については、それがない場合どのようにするか?といった指導、情報は、私の知る限りではありません。過去にはあったのかもしれませんが、若い社員に伝わっていないということは確かです。

それから、「単価アップ」ということについて。
ミキでも最近セット商品を売り出すようになりました。
当県エリアでは実験的に1年位前から行なっていました。
実験エリアであったこのエリアでは売上に関してはまぁまぁの成果が上がったものの単価が著しく下がり、それまで単価の高い商品を買っていただいていたお客様にも何も考えず安売り商品をとにかく売るという流れができました。それらの経過もあって、全国でセット商品の販売をするにあたり、単価について特に上から言われるようになりました。

今のミキではとにかく「売れる社員」「売れるお店」が評価されます。
というより「売れないお店」は「退店するぞ」といわれ、退店したお店の店長以下社員は見せしめ的に扱いが悪くなるようになってきています。

そのため店長は興味は売上だけになり、新入社員はわけもわからないまま高額商品をいわれるがままに販売をする。ちょっと事情がわかってきた社員は、そんな店長を見てモチベーションが上がるということも無く、辞める人も増えているようです。

【 】bについては、正しく数値を取ったわけではありませんので感覚での答になりますが、【両方のテストレンズで見比べてもらった場合「明らかに違う」という反応の方は1割くらい、「よくよく比べてみたら違う」という方が2割くらいでしょうか。逆に今まで使用していたレンズと同じ種類のテストレンズと高額品のテストレンズを同度数、同累進帯の長さで比較した場合、今までの物のほうが良いとお答えいただく方も1割位いるように思います。】c

何のためのセット商品?

岡本
単価を下げたくないのに安いセットを並べるというのは、まあ、オトリ商品のつもりか、
あるいは、18900円の均一店へ行く人を自店へ引っ張りたいということでしょうが、
オトリとして並べておいて、それを見て入店した人にはセールストークで高いものへ誘導するというのは、お客さんに対して失礼なことですし、店への不信感を呼ぶだけでしょう。

そうでなく18900円均一の店に行く人をこちらに引っ張って、気持ちよくそれを売ろうということであれば、ワンプライス店に比べるとそのセット商品の品揃えが少なすぎますし、それでももしそれがそこそこに売れたのなら、平均単価ダウンは避けられません。

逆に、セットねらいでない人がセットの中に自分好みのものを見つけて「これはいいや」と思ってセットの方にしてしまうとそれこそ「誤算」でしょう。
(現場の販売員はあのセットは歓迎していないと思います)

どちらにしても常に売り上げアップを続けなければいけない量販チェーン店という業態の企業としてはつらいところですね。

安い商品を並べたチラシで多くのお客さんに店に来てもらって、あとはセールストークで安価を上げるという商法が通用しにくくなったのか、最近、メガネ店の折り込みチラシがめっきり少なくなりました。

価格は安くなくとも、お客さんにとって本当に役に立って喜ばれるものを自信を持って堂々と宣伝して、それをドンドン売ればよいと思うし、現場の販売員もそういう商売をしたいと思うのですが、テレビで例の18金のパイプ付きの枠の宣伝を見たことがないのは、あの枠には自信(価格に見合う価値を持つという自信)がない、ということなのかもしれませんね。

それと、店長がその店の営業成績を上げるためにその店の販売員につねに「単価アップだぞ」と言っているというのは多くの大手のメガネ店で昔から見られる光景のようです。

【 】c については、そうするとやはり、【累進の場合、銘柄と技術の比率としては、
ざっと、銘柄2で技術が8、くらいなのでしょう。】d

若井
おっしゃるとおり、セット商品導入の際には現場社員にやりにくさのようなものがありました。上からの説明(というよりプレッシャー)によりセット商品を販売するようになりました。 セット導入の際の上からの説明の一つとして「現状、売上が上がらないのだからセットを取り扱ってそのようなニーズにも対応する」というものがありました。 【 】dについては、私もそうだと思います。

魅力ある差別化が決め手

岡本
貴店の場合には、あのセットはオトリのつもりではなく、ワンプライスショップに少しでも対抗するために、低価格指向のユーザーもつかもうといものでしょうが、もともとそのつもりで来店したのではない人にでも、そちらに回られてしまいかねないというリスクもあるわけで、その点の損得を考えると微妙なところでしょうけれど、現場の人間としては一生懸命に測定してフィッティングして加工して、となると、2万円以下のセット品なんて売りたくないですよね。 当店の場合には、最低でも一式3万円台後半です、と言っています。

前に聞いた話ですが、ある量販店では、セット品はおとり商品なので、それを多く売る販売員ほど評価が下がる(あるいは、それを多く売る支店ほど評価が下がる、だったか?)のだそうです。

まったくお客さんをばかにした商法ですが、上の人間からすれば「安いものは誰でも楽に簡単に売れる。セールストークで高いものを売って会社に貢献することこそ君たちの役目じゃないか」というところでしょうが、そのためにおとり商品を設定するというのは感心できません。

逆に、ワンプライス店の場合には、コストの安い枠やレンズをたくさん売る店ほど評価が高いのでしょう。 とにかく、規模が大きくなればなるほど、上の人間は、技術ウンヌンは横において、売り上げの数字に最大の関心を持たざるを得なくなっていくようです。

たとえば、ファミレスにも、駅の立ち食いそばやにも、高級フレンチの店にも、それぞれにふさわしい価格帯があります。ひとつの料理に掛ける手間暇も違いますし、料理を作る人の年期の入り方も違いますし、店の作り方も違いますから、商品の価格が違って当然なのです。

ですから、高級料理店は1000円以下で食べられる晩めしなんてのはやらないわけです。 我々の業界でも、スリプラ店やワンプラ店では、教育投資や技術投資、一つの商品に対してかける時間コストなど、それに応じたコストのかけかたをしています。

ですから、たとえば、一式単価で5~6万円程度をねらう店が、1万円台のセットを並べるというのは、中~高級フランス料理店が、1000円台のディナーもメニューに加えるようなもので、おかしなことですよね。

そういう見方をすると、あれもこれもと焦点の定まらないことをしている店よりも、まとを絞って価格展開をする店、あるいは、自店はこういうものを得意にしていますとはっきり打ち出せる店のほうにお客さんが惹かれるのは、当然だと思うのです。

たとえば、家電製品は、食品でも衣料品でも家電でも何でもありますというスーパーよりも、ヤマダやコジマの方がずっと売ります。メガネも、何でもあります、ではなく、こういう価格帯ならまかしておいてください、とか、この種のメガネなら絶対当店です、という打ち出しかたでないと、これからは難しいと思います。

そういうことをしても、ダメなところはダメですが、そういう打ち出しかたをしないで繁盛するのは今後は無理なのではないでしょうか。

簡単にいえば「魅力ある差別化」が必要だということです。
そして、それができるためには、規模が小さい方が有利だと思います。

                                            2009.1.25

投稿日:2020年10月18日 更新日:

執筆者:

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