当店にも初めてのお客様が

東京都 ・ マリコ眼鏡店  原 靖宏

この研究会のホームページをご覧になって、深視力検査をご希望のお客様が当店に初めてお見えになりました。
54歳の男性で、タクシー会社入社の際に受けた適正検査で、深視力がまったくだめだった、とのご相談でした。
20年以上も前に作られたメガネをお持ちですが、「ほとんど使用せず最近になって運転の時に使うようになった」とのことです。
少し前に見た、ある深視力計では、3本の棒が4本に見え、別の深視力計では、3本に見えるけれど、真ん中の棒が手前にあるのか、後方にあるのかさっぱりわからなかった、ということです。

現在眼鏡度数
R=S-1.50 C-0.25 Ax90
L=S-1.25 C-0.50 Ax55
BV=0.7 BV=(1.2) OCD65.5

完全矯正値
R=(1.2×S-1.50 C-1.00 Ax90)
L=(1.2×S-1.25 C-1.50 Ax75)
BV=(1.5) PD=66
眼位は、6△B.I. 左1.0△B.U.

斜位を矯正しても、時々左眼に抑制が起きていました。
視標によっては抑制が顕著で、ワース4灯や両眼バランステスト用の偏光視標などは常に左眼に抑制がかかり、立体視用の視標では抑制が起こらず、立体視ができていました。
よく見えていないけれど、そこそこ見えるという裸眼で過ごしてこられたということもあり、何らかの原因で、左眼に抑制がかかるようになったのではと想像し、ブロックストリングで練習してみました。

はじめは生理的複視は起きず、右眼で見える紐が一本に見えていました。
右眼を隠して、左眼で遠くから近くへと玉を順番に見ていく練習を繰り返し、その後両眼で練習し、それを何度か繰り返しました。そうするとだんだんと抑制することが減ってきました。
深視力も遠近感がつかめるようになり、合格ラインに納まるようになってきました。

そこで、眼鏡が出来上がるまでは古いメガネを掛けるようにして、左眼でしっかり物が見えるように、練習してもらうことにして、処方値を下記度数にして眼鏡をお作りすることにしました。

R=(1.2×S-1.50 C-0.75 Ax90)
L=(1.2×S-1.25 C-1.25 Ax75) PD=66

3日後にご来店になり、新しい眼鏡で抑制の有無を確認したところ、抑制は起こらなくなっておりました。
深視力は、手前から動かすときは2cm以内になりますが、後ろから動かしたときは、3cmくらいずれることもあり、合格できるかちょっと心配です。
ご本人も棒の動きはつかみにくいと言われていましたが、遠近感と立体感は認識されているお答えでした。
なお、ブロックストリングは、遮蔽板つきブロックストリングを使って、抑制のかかる左眼のみの練習からはじめてみました。

このかたの場合は近見では抑制が起きていませんでしたし、上斜位は気になりましたが、輻輳の問題もなかったようですので、両眼でしっかり見ることができれば、立体視も向上するような気がしました。
検査後の練習時間は10分くらいでしたが、左眼、両眼、左眼、両眼とこれを3回ほどで、50cmから1.5mくらいの間の玉が、抑制せずに見えるようになってきました。
2mくらいの位置にある玉を注視したときは、抑制が起きることのほうが多いようでした。
それで、少しずつ抑制が少なくなってきたため、ご帰宅の後にもなるべく眼鏡を掛けて過ごしてもらい、ブロックストリングの要領で、いろいろな位置にあるものを見てもらう練習をしてもらいました。

このかたのその後ですが、適正検査でだめだった深視力試験は、もう少し先になるそうで、現在は入社試験の準備勉強中で、深視力の練習にご来店されました。
2週間前に新しいメガネをお渡しした日に、深視力計で練習したときには、棒の動きが今ひとつ分かりにくいようでしたが、この2週間は、なるべくメガネをかけるようにして過ごしたところ、今回は、前後それぞれの方向から動かしても、平均5ミリ程度のズレになっていました。
ご本人も前より棒の動きが良く分かるとおっしゃっていました。大きくズレても1センチ程度で、これならまず間違いなく合格できるのではないかと思います。(実際に合格できるまでは心配ですが)
偏光視標では少し交代性の抑制も見られますが、ブロックストリングの見え方は正常で、50cm、1m、2mの玉の位置で見てもらったところ、どの玉にもすばやくピントが合うようになりました。