[ML談義] 他店購入の新品枠へのレンズ入れについて

枠はあとで安いものをよそで

岡本
メガネ屋をしていると、いろんなお客さんが来られるものです。
さきほど、珍しいお客さんがおこしになりました。

「ネットで見たんやけど、眼精疲労にきくメガネをほしい」

「はい。かしこまりました」

「レンズはどれくらいするの?」

「そうですね。お客さんいま、コンタクトは入れておられませんか?」

「うん、入れてない」

「それならおそらく左右で2万円よりも少し安いくらいでいけると思います」

「そう……。 枠はまたあとでどこかで安いのを買ってくるワ」

「!?」。

私は一瞬凍り付きました。

既に買った新品枠の持ち込みはときどきありますが、こういうことを言って検眼を希望した人は私の記憶にはありません。

それで私は、「枠にフィッティング料金は含まれているはずですが、枠だけ買う場合にフィッティングなんかしてもらえませんよ」 とか 「調整や加工で枠に何か起こった場合、責任がとれません」 「枠の材質が分からない場合、うまく調整できないことがあります」 とかいろいろ言って

「枠も当店でお求めいただきたいのです。枠とレンズとで3万円を少し超えるくらいでもできますけど」。

「フィッティングって、なんでそんなことが要るの?」と聞かれましたので、そのことについて詳しく説明しました。

「3000円とかで安い枠を売っている店でも、フィッティングをしてと言えば、ちゃんとやってくれるのと違うの?」

私 「フフッ、腕の立つ板前さんが立ち食い蕎麦の店にいると思いますか?」

我ながら分かりやすいたとえだなと思いました。(^_^)

すると 「とにかく測ってみてください」。

私は 「せっかく測っても、当店でお求めいただけないことになったら私は無駄骨を折ることになりますので、枠も当店でお求めになるとおっしゃっていただかないと測定はできません」

「ほんなら、考えてみる」ということで店を出ていかれました。

みなさん、こういうふうに「枠はあとでよその店で安いのを買うので、ここでまず測定
をしてほしい」と言われたら、どう対応されますでしょうか?

印藤
立ち食い蕎麦屋のたとえは、とても的を射た、且つユニークなたとえですね。思わず吹き出してしまいました(^o^)

それで、こういうかたへの対応ですが、私の場合は、会社が 「無料検査、喜んで!」という一応のタテマエを持っているので、個人的には断りたいけれど、断れないという状況です。

野々村
これは、もう頭に来ますね。お客様も店を選ぶ自由がありますが、同時に私達にもお客様を選ぶ自由が狭いですけどあります。
よって私の場合は加工料などでやんわりと他所さまへ行かれるようにします。

岡本
それでそのお客さんが、枠を持ち込んで「検眼してください」と申し込む、ということをなぜしなかったのかということを考えてみますと、検眼の結果、この人の眼精疲労に対して効果がありそうな度数が見つからなかったら、メガネを作ることはないから、先に枠を買ってそれを無駄にすることは避けたい、ということでしょう。

それで今回「枠はあとでよそで安いものを」と言われて私はムカッと来たのですが、よく考えてみると、腹黒い人なら、測って結果が出てから、枠は持っているので明日持って来る、とか言って、レンズだけを当店で注文して、よそで安い枠を買ってくるかもしれません。

あるいは、もっと厚かましい人なら、いま持ち合わせがないので明日お金を持ってくる、参考までに、とか言って処方度数の記録だけを欲しがるかもしれません。

もちろんですが、そういう「とりあえず度数のメモをください」という要求は断りますが、いずれにせよ、無駄骨(検眼の手間)を折らされなかっただけ、今回は助かりました。

それと、印藤さん、そちらの店では、持ち込み新品枠へのレンズ入れも、もちろん断らないのだと思いますが、もし、「この店には自分の好きな枠がないので他で枠を買ってきたいけれど、どんな枠でもいいの?」と言われたらどのように申し上げるか、ということはマニュアルか何かであるのでしょうか?

 

実物を見せていただいて

印藤
そういった場合、会社で示しているマニュアルはございません。
但し、私勤めている店舗では、ほとんどのスタッフが下記の様にお客様にお伝えしています。

「他の眼鏡屋さんで購入された枠で、レンズのみのご購入でもお受けしています。但し、物によっては度付きにする事自体が難しいものや、お客様のお度数によっても度付きが不可の形状のフレームがあったりします。 まず、実際に物を見せて頂いて、その上でお受けできるかどうか判断させてください。」

このように申し上げますと、大体が後日購入されたフレームを持ってこられます。
その後、度付きが可能か拝見させて頂いた上で、お受けしております。

岡本
レンズは入っても、満足なフィッティング状態にすることが不可能な枠もあります、ということも言っておく方がよいと思います。
それで、家に、その枠がすでにあるという場合なら、その説明に対して別に不満は抱かずに、当然その枠を持ってこられるでしょう。

しかし、【これから他店へ枠を探しにいく(建前は「自分が気にいる枠」だけれど本音は
「安い枠」……なのかも)というのであれば、「じゃあ、どういう枠がいけなくてどういう枠がよいのかを教えてよ。だって、買ってここへ持ってきてから『これはダメです』と
言われたら困るもの」ということになるかもしれません。

そう尋ねられたら、どうお答えになりますでしょうか?
(印藤さん以外のかたにも、お尋ねします)】a

今回の冒頭で紹介したような「枠はあとでよそで買うから」と言って検眼を求めるかたは非常に珍しいのですが、下調べみたいに来店して「近いうちに、ここで眼を測ってもらってレンズを入れてもらいたいのだけれど、他で枠を買ってきてもいいの?」 とかあるいは、検眼が終わってから、気にいる枠を探したけれど無いので、他で枠を買いたい、というケースなら、当店の場合たまにあります。

そういう場合には、もちろん、印藤さんがおっしゃったような説明をするのですが、そうしたら「じゃあ、どういう枠が良くて……」と尋ねられる事が多いわけです。

鬼柳
当店などは、ショッピングモールの中にあることもあり、「持っているサングラスの枠に入れられるの?」とか「どこかでブランドの枠を買ってくるから、レンズを入れてくれるか」などの質問はよく聞きます。

サングラスなどは持ってこられた際に、こちらでブランドを確認して「この品番のこの枠に度を入れるにあたって強度的にはどうか」「そもそもレンズ交換に対応しているか?」という事を尋ねてあげたりした事もありますが、基本的には、サングラスや他店で枠を買うという場合は「買われる際にきちんと度入りのレンズ交換が可能かあちらの店に尋ねてください」とお話します。

ただ、「度入りに出来ると言われた」と持ってこられて実際に加工でかなり苦労したこともありますので、上手な言い方とは思えません。
中には1000円位のサングラスや500円程度の既製の安い老眼鏡をお持ちになって、レンズ交換を希望される方もいらっしゃいますが、その際はこちらで見て判断し、お断りすることもあります。

余談ですが、昨日自動車板金の経営をされている方も言っておられましたが、見積りを出すと「ネットだともっと安い」と言われ、部品を安くオークションで購入して取り付けだけを任される事もあるそうです。
「まあ、手数料はきっちりもらうから……」とのことでしたが、わざと「そんなに安いの
ならうちにも仕入れてもらおうかな!」と嫌味を言うそうです(笑)

 

売れるものなら売る

岡本
度つきにできるの?と聞かれた他店は、自分のところでレンズを入れるのでなければ、あとで苦労をすることはないので、いい加減なことを言ってでも、とにかくそれを売ってしまおうとするでしょうネ。

万一「この枠は度付きにできないとメガネ店で言われたので返品します」と持ってこられたら、それで引き取っても、別に損はしないわけです。

もしそのレンズ加工をよその店で引き受けて、うまくいかなくて困り果てたとしても、そこまでオレの知ったことかい、という気持ちでしょう、というか、そんなことまで考えていないでしょうね、特に雑貨屋さんなら。

メガネ屋の場合だったら、もしそういう「よそでレンズを入れようとしてうまくいかなかった」とか「よそでは度付きにはできないと言われた」ということを聞いたら「ウチだったら入れられますが、そこの店は技術がないのですね」と言ってすましておればよいわけですが、まあ、めったにそういう苦情は受けないでしょうから、とにかく、枠だけ売るというのは、たいていのメガネ店はフィッティングなしで売るのですから、手間なしで儲かる商売として大歓迎でしょう。

だからメガネ枠の通販業者が一向に減らないわけです。

鬼柳
枠のみを買われた先が眼鏡店であれば、レンズ入れのリスクが高い場合は「買ったところで出来るというならやってもらった方がよろしいと思います」と言ってしまったほうが良いのかもしれません。

それで自店の評価が落ちるのは悔しいですが……。

岡本
当店の場合は、HPを見て「ここは検眼は上手なようだが、枠は安くすませたい」ということで、どこかで買った安い枠を持ち込む人がときどきいます。
そういう人に『レンズもその店で』と言っても、なかなか承知されないわけです。

鬼柳
そうですね。う~ん、難しいです。

印藤
【 】aへのお答えですが、う~ん、そこまで図々しく言われるお客様は当店では稀ですね。しかし、以前これと似たケースがありました。

その時はこの様に言った様に思います。
「正直フレームを見てみなければ分かりません。ただ、アパレルさんや雑貨屋さんのメガネは度付きが難しいものが多いです。眼鏡屋さんに置いてあるものならば、度付きは一応大丈夫でしょう。しかし、度付きが大丈夫だからと言って、掛かり具合は満足いくとは分からないですよ。こちらで見てもいないのに大丈夫かどうかを安易に申せません」

フレームを見ていなければ、こちらでは本当に何も分かりませんから、お客様は一応ご納得されたように思います。

こちらが多少の親切心から、例えば「お顔幅とフレームの幅を合わせたら、概ね大丈夫ですよ。」等と安易にアドバイスを言ってしまっては、購入される所でいいかげんに「合っている」と言われたり、お客様がこちらの発言を都合よく解釈され、やはり変なフレームを買って持ち込まれる場合が多くあるわけです。

そういった場合、「お前がこういうのだったら大丈夫と言ったじゃないか!」と言われかねませんし、安易な発言をしてしまったこちらにも微小な責任がでてしまいますから、私は「見ていないものに関しては、分かりません」としか言いません。

ただ、他店購入の、ある人気ブランドのフレームを持ち込まれた場合は困ります。
あれは掛け心地を良くする余地が非常に少ない枠なのに、雑誌媒体やら購入店等で異常なほど過度に「誰が掛けてもスペシャル掛け心地が良いフレームです」とうそぶかれている枠です。

お客様は自信満々で「これなら大丈夫でしょう!」と持ち来まれるケースがよくありますが、実際に仕上げてフィッティングをしてみても……。(-_-;)

落胆されるお客様にフォローを入れるのが、たいへん心苦しいです。
それでも粗悪品の枠を持ち込まれるよりはマシだとは思いますが。

 

他店枠利用にもいろんな場合が

岡本
世間には、宣伝をそのまま信じるユーザーが多く、だから多大な宣伝費をかけて商品イメージや企業イメージや国家イメージなどを上げようとするのでしょう。
そして、やはり、それなりの効果が出るわけです。

他店購入枠への自店でのレンズ入れ、ということを場合に分けて考えてみます。

1)旧枠へ
a)以前に使っていた枠に
b)現在眼鏡の枠を利用して

2)新枠へ
c)新規客が他店で購入
d)従来客が
e)旅先で気に入ったものを見付けて購入
f) 近隣他店で購入

3)新規客従来客を問わず
g)枠は後でヨソで買うという

1)の場合は、a)でもb)でも、当店で加工のできそうなものであれば、まず断りませ
んよね。これを言われた店側としても、特に腹立たしい思いはしません。
ただ、弱っていないかどうかの見極めは必要ですし、加工中にもしもの事があった場合の対応をどうするのかという問題が残ります。実際には、まあ、めったにアクシデントはないものですが。

c)の場合も、加工や調整で問題がなさそうなら普通は受けますが、あまりありがたいお客さんとは思いません。
万一のカラーはげや破損変質の場合の責任のとりかたについても言っておかねばなりません。

もしも、加工中や加工後の仕上げ調整によって破損して使用不能修復不能となった場合に、それでもレンズ代金はもらうのかどうかという問題も出てきますので、他店枠の場合には、加工前に300%のフィッティングをしておくべきでしょう。

そして、加工や調整で微妙なものなら、受けない方が無難です。
あるいは、c)はすべて断るという対応も悪くはないと思います。

e)の場合も、まあ、しかたがないか、という感じですが、やはり加工や調整に難がありそうなら、断ることもあるわけです。

f)は、ある意味、屈辱的というかムッとします。

当店で枠を買わなかった理由として

(1)枠は安物ですませたかった。
(2)当店にはない18金、べっこう、高級ブランド品だった。
(3)そのブランドの枠が当店になかったので他店で購入
(4)スタイル的に気にいるものがなかった。
(5)サイズ的に合うものがなかった。

などが考えられます。

人にもらった、ということをおっしゃるかたもおられますが、ホントかどうかはわかりません。
このf)の場合も、基本的にはc)への対応と同じですが、(5)の場合には大いに反省の必要がありますし、(4)の場合も、場合によってはやや反省ものかもしれません。

でも、(3)の場合には私は反省はしません。そんなことで、すべての人の要望に応えるのは無理ですし、人気があっても機能的な面で扱いたくない枠もあります。

たいていの場合「斬新な構造」や「画期的なデザイン」のものは、レンズが入れにくかったり、フィッティングがやりにくかったり(できなかったり)するものです。

もちろん、(1)(2)も、反省はしません。

g)の場合、どういうふうに「当店では難しい枠」を説明しても、それでもやはり難しい枠を買ってきてしまわれる可能性は残ります。

ですので、これは断るか、あるいは、「買うときには返品可能かどうかを聞いて買ってください」 とか 「その店できっちりフィッティングしてもらってください。店の人が『レンズ入れをしたら枠の状態が変わるので、レンズを入れてからその店でフィッティングしてもらったらいいです』と言うようなら、それは責任逃れです。

必ず、その店で、掛け心地がまったく問題ないように、すなわちずり落ち感がなく、窮屈感や痛みがないように調整してもらってください」と言っておきます。

もちろんですが、「通販で買おうと思っている」とおっしゃれば、断ります。
もっとも、まだ前もって通販での枠購入を予告したかたはおられませんが。

私は、今後もし、またg)のケースがあれば、すべて断るつもりです。

そしてa)b)c)も、加工や調整に難がありそうなら断ります。
e)f)は、ケースバイケースですね。

ただし、受ける場合でも、万一のことは必ず言っておきます。
一般の人は、加工が難しい枠やフィッティングが難しい枠(できない枠)があるということをあまりご存じありません。ですから「他店購入枠はお断り」と聞くと、レンズだけでなく枠も自分の店で売って儲けようという主義なんだな、と感じる人もいます。

そこまでではなくとも、「レンズだけで、申しわけないのですが」と、手間の割りに儲からない仕事をさせて申し訳ないというふうに他店購入枠を持ち込むかたもおられます。

逆に「レンズだけでも売上げになるのだから文句はないだろう」という感じで他店購入枠を持ち込む人も、たまにいます。

とにかく、まともな眼鏡技術者は、素材や構造などについてよくわからない枠には手を出したくないので、そういう他店枠の持ち込みは困る、ということは、ほとんどのユーザーはご存じないようです。

ですので、他店持ち込み枠を断る場合には、丁寧な説明が欠かせないわけです。

ちなみに、横田さんは前に、他店枠はフィッティングしないとおっしゃっていましたが、フィッティングさえなさらないのなら、当然レンズ入れもお受けにならないのだと思いますが、上記のa)~g)のどの場合も、お受けにならないのでしょうか。

印藤
g)の人に対して断らないのなら岡本さんがおっしゃるように言っておけば、お客様も少しはフィッティングの大切さを分かって頂けそうな気がしますね。

特に「返品可能かどうか」なんて聞いてもらったら、購入店の方でもフィッティングをシビアにしなければと、多少は意識してくれると思いますし……。
これからは、私も一言上記のように言ってみようと思います。

 

横田さんは柔軟路線に

横田
前に、他店枠をフィッティングするかどうかという件について、岡本さんといろいろとお話した後は、あまり頑固にならずに、出来る枠は出来る範囲内でフィッティングを行なっているのが現状です。

当店のHPには未だに「他店購入のフレームのフィッティングはお断りしています」と書いてありますが、近日中に、もう少し柔らかい表現に変える予定です。

さて、他店枠へのレンズ入れですが、a)b)共にこの場合は、お持ちになったフレームの状態が問題で、痛みがひどい場合は断りますし、フィッティングが出来ずに、「このフレームに新たなレンズを入れても具合が悪いだろう……」と、思う場合は、お断りします。

c)なら、物と人を見てから、かもしれません。ただ、これはa)b)に比べて、気が
乗りません。

e)は一度だけありましたが、お得意さんで、そのフレームを、どうしても気に入ってしまった……とのことでした。(バルーナと云う木のフレームです)その時は、出来る範囲内でフィッティングをして、レンズを入れました。

f)は、事情が納得できないと、やる気がわきません。正当な理由で、フィッティングがちゃんとできれば、やるかもしれませんが……。

g)は、実際の体験がありませんので、想像ですが、すぱっと「それはできません」と云うと思います。

いろいろ書きましたが、やはりフィッティング中に壊してしまったり、メッキを剥がして
しまったりと、フィッティングにはリスクがありますので、【その点を十分にお話して、
それでも他店購入のフレームを使いたいという人は、多くはありません。月にほんの1~2件ぐらいでしょうか……】b

岡本
横田さん、他店枠のフィッティングについては、少し柔軟路線にシフトされたようですね。

g)については、そなえあれば憂いなし。今後もしこう言われたら、間髪を入れずにお断りできるでしょう。

それと、【 】bであれば、決して少なくはありません。ウチはもっと少ないです。

とにかく、当店は今後、他店購入の新枠へのレンズ入れは、原則おことわりで、特に事情を斟酌できる場合においてはお引き受け。ただし……と条件を付けることにしますワ。


当店の、と言うより私のお客様になると思いますが、フィッティングにかなりシビアな方で、かつ眼鏡が趣味みたいな人で、時々フレーム持ち込みされる方があります。

他店では気に入るように合わせてもらえないのと、私を信頼して来店されますので、レンズだけでも購入して頂くことで一式調製しています。(累計購入金額は30万円以上になってました)

先日その人が喜び顔で気に入った眼鏡があったので調整してもらえますかと、レンズの入ったものを2本とレンズ無しのを1本持参されました。

レンズ入りのに対しては、すこし言うことを迷ったのですが、通販のお店に調整料を請求してみてもらえませんかと提案したところ、調整の大事さをご存知なので当然自分で払いますとの事で、話し合いの上調整料として2本で1万円を頂きました。

1本1万円にしようとも思ったのですが、度付き1本1万5千円くらいで購入されたようですので、これくらいなら払ってもらえる可能性があるかなと思ったのです。

そして後日それを通販の方に請求して払ってもらったとの事でした。
途中、私のほうにもそのお店から問い合わせの電話があったので、フィッティング無しだと一種の不良品を販売してる様なもんですよ、とは言いましたが、その通販業者は、どこでも無料でしてもらえるという程度の認識でした。

ですからそこが費用を払うとは思いませんでしたので、多少紆余曲折はあったようですが、あとでそのお客さんから「一万円払ってもらいましたよ」と報告を頂いたのには少し意外でした。
これはかなり例外的な事例でしょうが、ご報告します。

岡本
その通販業者の場合、辻さんに調整料を払いズミのお客さんから業者に文句を言ったから調整料を返したわけで、辻さんから言ったのなら辻さんには払わなかったと思います。

それにしても、フィッティング技術に関して、このお客さんくらい理解があり、それを実際に金銭で評価してくださるかたは珍しいと思います。

私の場合には、ほとんどの場合、枠とレンズとを販売するときでも、枠だけ販売するときでも、枠の代金を値引きしないということで、その枠におけるフィッティングの価値観を主張するのですが、枠を他店でお求めの場合で、そこにレンズを入れる場合には、調整料だけを別にもらったことはありません。
そのかわりに、せいぜいレンズを値引き無しで販売するということくらいです。


今回は岡本さんのおっしゃるとおりで、以前通販の話題で岡本さんとやり取りした時の経験から、ある程度通販業者の対応が予測できたのです。そこで試しとして、直接私からでなく、先にお客様から業者に請求していただき、もし相手が払ったら代金を頂くという提案をしたのです。

気の弱い方なら請求など出来ないでしょうが、お客様の気心がある程度わかっていたのと、通販業者に一寸お灸をすえてみたいとの思いで提案しました。
それなら先に自分でちゃんと払いますということになったのです。

とはいえ、今回は3本持参されたうち、1本は当店でカラーレンズを入れて代金を頂きましたし、業者が払うかはどうかということにはかなり疑問符がつきますので、提案しようかどうかは迷いました。

しかし、調整は他の店に任せられないと言われるくらい信頼していただいているのと、通販には業界でも困っていることなどお話しした結果、後の度付きで持参された2本に対してのフィッティング料として代金を頂くことになったのです。
状況が合いそうなら、もう一度同じ方法を試そうかなと思っています。

 

技術をつまみ喰いされたくない

岡本
その対応も悪いとは申しませんが、このお客さんは結局「アンタのフィッティングや検眼の腕は評価するが、品揃え(のセンス)は自分には物足りない、不充分だ」ということなんですよね。

こういう人にどう対応するのかということになりますが、ほとんどの場合は自店で一式作らせてもらえるのだが、たまに他の枠を持ち込む、というのならまあ許せるのですが、そうでなくて、他店枠の持ち込みで作る方が多いとか、自店では枠は全然買ってくれない、となると、私なら、持ち込み枠にレンズ入れと調整だけ引き受けるのはお断りしますね。

何年か前にあったことですが、これまでにおひとり、年に1~2回、他店枠をレンズ入れに持ち込み、自店ではまったく枠を買わない人がいました。

3度めか4度目くらいのときに、他の店の枠を持ち込まれるのは、これで最後にしてくださいと申し上げました。もちろん理由も言って。

技術のつまみ喰いをされるのはお断り、ということもありますし、そういうことで持ち込まれる他店枠にはコンセプトショップ系の変わったものが多く、加工や調整で難儀をするものも少なくありません。

また、どのお客さんでも、一式他店で買われた眼鏡のフィッティングを有料で引き受けるのも、その眼鏡だけに限ります。
また次に別の新しい眼鏡を持ち込まれて、「お金を払うからフィッティングだけしてください」と言われても、もうそれは断ります。

私が他店枠のフィッティングを希望されたときには、下記のような手順を踏みます。

まず、事情を聞いて、買った店へまだ行っていないというのなら、そこへ行ってくださいと言い、引っ越してきたとか、そこで何度やってもらってもうまくいかないとかいうのであれば、引き受けるにあたっての条件を、申します。(これを「アイトピアの他店枠調整5原則」と名付けています。)

1)十分な注意を払って調整しますが、万一、破損などが起こって眼鏡の使用が不可能になっても責任は持てません。

2)不測の事態でメーカーや修理業者に送ることになった場合の修理代金は、お客さまの負担となります。

3)調整料金は1000~2000円程度で、調整が終わってからその手間に応じて
その金額を申し上げます。(交換したパーツなどがあれば、それは別途有料となります)

4)調整後に使用し始めて、後日にまた何らかの理由(まだ掛け心地が悪いとか)で調整を希望された場合も、有料になります。

5)次に眼鏡をお作りになる場合には、当店で一式お求めをお願いします。
(ただし、引越などで遠方へ行かれた場合は別です)

こう聞いて、それでもやってほしいと言う人もおられますが、それならやめとく、という
ことで、他の店へ行かれるかたも多いです。

たまたま当店の前を通りかかって、ふらっと当店へ入ってきて、お気楽に調整を依頼されたかたは、みなさん、回れ右です。(^_^)

しかし、たとえば、腹痛を治してもらいに医療機関へ行った場合のことを考えてみてください。

1)~4)は当然ですよね。1)の場合、医療ミスが立証されない限り、医師には責任追及はできません。
医療は結果責任ではなく行為責任(行為の内容が問題となる)なのです。
もし、医療が結果責任を問われるのなら、医師は年がら年中責任を問われることになり、それでは身が持ちませんから、少しでもやばそうな人には医療を断ることになります。

ただ違うのは、医師は公的資格により最低限度の能力が保証されている専門職だから、1)~4)の前置きを改めて言わなくてもそれは当然のこと、というのが一般的な認識となっているのですが、眼鏡を調整する人間には、そういう客観的な能力保証がないわけで、ゆえに、前もって一種の契約をすることにより、病気やケガの診療の場合と同様の、我々における権利の確保をするわけです。
(ただし、その権利の裏には、我々の持っている限りの能力を発揮してその仕事に取り組むという義務や責任があることを忘れてはいけません)

こういう条件づけは、きついなあと感じるかたもおられるかもしれませんが、しかし、当店は地域独占店ではないのです。

ですから、この条件をのめないのであれば、他のどこの店へ行こうがそれは自由なのですから、そんなきつい条件を並べるのはいかん、と批判するのはおかしいと思います。 (批判をするな、とは言いません。誰にでも批判をする自由はありますが、その批判にどう応じるかの自由もあるわけです)

それから、チラシなどで「他店メガネ無料調整」の宣伝をして、とにかく自店へ来てもらおうという商策をとる店は、当然ながら、こんな条件を前もって言ったりもしないでしょう。

そして、そういう店には調整に優れた技術を持っている人がその店にいる可能性が少なく、適当にお茶にごしのフィッテシングをするだけだと私は思います。

(了)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

(付記) 岡本

メガネ枠の調整を依頼なさるお客さんには、そのメガネを当店で買っていただいたものであるかどうかに関わらず、ユガミがきつかったりして、調整修復作業による破損などのおそれがある場合には、その旨を予め申し上げます。

それを言っておかないと、もしも破損した場合に、「直してくれとは言ったが壊してくれ
とは言っていないよ!」と立腹されます。
(私の場合、そんなことが過去に2回ありました。ほんの少し腕の角度を変えただけで蝶番のところで折れてしまったこともあります)

それで、調整作業による破損の恐れを当方が言った場合に、「その場合はしかたがありませんね」とおっしゃるユーザーもおられますが、「壊れない範囲で治してほしい」とおっ
しゃるかたもおられます。
(他店購入の枠の場合に、そういう虫のよいことをおっしゃるかたが多いです)

そんなときには私はこう言います。
「壊そうと思って壊すのではありません、このくらいの力なら加えても大丈夫だろうと思って調整しても、金属が弱っていた場合などに折れてしまったりすることがあります。その場合、あきらめていただけますか。あきらめるとおっしゃるのでしたら、調整をさせていただきます」

そうすると「あきらめます」とおっしゃるかたもおられますが、「それならもういいです」と言って、他の店へ行かれるかたもおられます。

「壊さないようにして直してほしい」というその気持ちはわかります。わかりますが、しかし、考えてもみてください。

おなかが痛くて、医療機関へ行って「これよりもひどくならないようにして治療をしてください」などと言う人はいませんよね。

なぜ、そう言わないのかといいますと、医師という、国家資格により最低限の能力を保証
された人間が診断をして治療をしても、もし、うまくいかないのなら、それは相手が悪い
のではなく自分の身体が悪いのだという暗黙のうちの了解があるからです。

しかし、一方、メガネのケガや病気(枠のゆがみや掛け心地の悪さなど)を直す医師とも
言うべき、眼鏡技術者には、公的資格による最低限の技術レベルの保証がありません。
上手な人なのかヘタな人なのか、ユーザーからはまったくわかりません。
(本人も、自分のレベルを分かっていない事が多いようです)

だから、もし、調整作業によって、おかしなことになってしまったら、ユーザーは「この人がヘマをした」と判断して相手の責任を追及することも十分にありえます。

ですので、事前の断り無しに、調整作業にとりかかって、もしそれにより破損などが起こった場合には、その時点で「私は無理なことはしていません。枠が相当に弱っていたに違
いないです」などと言ってみても、ユーザーは納得しにくいわけです。

ですので、そういう場合の責任追及を避けるには、調整を依頼された者としては、枠の状態をよく観察して「この枠の調整は少しやばいな」と思えば、事前に破損の可能性を言って了承してもらう、ということしかないわけです。

たとえば、将来メガネの技術者の公的資格ができたとしても、だからと言って、メガネの
ユガミなどの調整修理と身体の不具合の治療を、私が今述べたようなアナロジーで理解できるユーザーは少ないと思います。

ゆえに、事前の了解無しに、調整作業で枠の破損などが起こった場合には、ユーザーは納得できないでしょう。

ですので、とにかく、我々眼鏡技術者は、メガネの調整を依頼されたときには、特に他店
のものだと、素材や強さなどまったくわからないものもありますから、事前に「もしもの場合のこと」を言って了承を得ておくのが賢明なわけです。

事前のおことわりを言わないで、調整によって取り返しがつかないことになってしまって
「これはイタリアで買ってきたものです。同じもので弁償してください」などと言われたら、本当に途方に暮れてしまいますから。

そして、新品枠の場合には、多かれ少なかれ調整をしないといけませんから、他店購入の新品枠に自店でレンズを入れる場合も、必ず、事前のおことわりを言っておくのがよい
わけです。

投稿日:2020年10月22日 更新日:

執筆者:

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