[刻加私見] 眼鏡士が業務独占の公的資格になると

                                 岡本 隆博

初めに

業界誌の報ずるところ(2010.秋)によると、(社)日本眼鏡技術者協会(以下「協会」と略す)は、眼鏡士の国家資格化については、業務独占を目指しているとのことである。

それが本音かどうか不明ではあるが、たとえば「業務独占ではなく、名称独占でいきた い」と公言したならば、「なあんだ。国家資格の眼鏡士でなくとも、同じ業務ができるのか。 だったら、もう認定眼鏡士の会費を払うのはヤーメタ」などという人も出てこないとも限らない。 だから、あくまでもアドバルンとしての「業務独占」なのかもしれないのだが、あるいは、もしかして本気で業務独占を狙っているのかもしれない。

いずれにしても、国家資格化で動いている、ということを協会は業界に対して(特に認定
眼鏡士たちに対して)常に言い続けないと、認定眼鏡士を更新する人が減っていくのは明らかだと言えよう。 協会が認定眼鏡士を始めるまでは、国家資格化についてはほとんどあきらめの状態であったから、協会会員は年々減って、私の記憶では最低のときでは4000人前後ではなかったかと思う。

さて、本気にしろ建前にしろ、眼鏡士を業務独占の国家資格、というのを実現させたとし
たら、実際にどのような問題やメリット、デメリットが生じてくるのか、ということを、これから検討してみる。

1)業務独占の資格というもの

法律の裏付けを持った業務独占の資格となると、いったんそれを得たら、よほどのことがない限り、その資格を失いたくない、というか、実際上、返上などできない。そして何ら
かの理由により資格剥奪をされたら、もうそれまでどおりの商売ができなくなるから、皆が資格剥奪を恐れて、その法律で禁じてあること(必ずしも「悪い」ことばかりではないだろう)はまったく出来なくなる。

すなわち、協会や行政権力の下で、おとなしく、お行儀良く眼鏡士を続ける他ないのである。 そして、業務独占の資格というのは「強い」権限を持つ資格であるから、それだけに「責任」も重くなる。

2)業務独占の内容は

協会は、度付きレンズの入ったメガネの加工調整や度数選定や販売の業務を眼鏡士が独占できることを目指しているようである。

ということは、枠のみ、あるいは度なしのサングラスの販売は資格を持たない者でも行な
ってよいということであろう。

となると、業務独占の国家資格制度が施行された以後には、無資格者による、サングラスや度なしメガネ、あるいは、フレームのみの安売りが蔓延するおそれがある。
従来からのメガネ屋で、国家資格を持てなかった人間は、そうでもしないと食っていけな
くなるだろうから。

3)そういう制度にしたら、安売り店はなくなるか

なくならない。現に、国家資格者でないとメガネが販売できないアメリカやドイツで、いま、安売りが大はやりである。
資金力のあるところは、資格保持者を雇って商売を継続していけるのである。
なので、メガネ屋が国家資格になったら国家資格を持てない人間がやっている店はつぶれるし安売りもなくなって自分の店の商売が楽になるのではないか、などと甘い考えは持たない方がよい。

4)そういう制度にしたら、通販はなくなるか

これも、なくならない。もし、我が国では度付きメガネについちぇは通販禁止ということになっても、枠だけの通販はますます盛んになるだろうし、度付きの場合も、海外のルート(トンネル会社)を利用した通販がはやるだろう。
現に、国内では無資格では販売できないコンタクトレンズ、ある種のドラッグ、バイアグラ、などは、そういうルートでどんどん通販が行われている。

5)眼科の処方箋のこと

いまは、お客さんから眼科の処方箋を示されても、その度数にいまひとつ信頼がおけないと言われた場合とか、技術者がそれを見ておかしいなと思った場合などは、自店で測定して、お客様がより満足される度数でメガネを作るということができる。

しかし、国家資格になったら、薬剤師が薬の処方箋のとおりの薬しか渡せないのと同様に、医師が発行した眼鏡処方箋を見ていながらそれと違う度数で作るということはできなくなる。もしそれをしてばれたら資格剥奪となるから。

薬剤師の場合、疑問を感じた処方箋については医師に対する疑義照会ができるのであるが、実際にはそれをしたら「うるさいやつ」と思われて商売が難しくなる。それはメガ
ネ屋でも同じである。

だから眼鏡屋は、眼科の処方箋については、よほどむちゃくちゃな度数でないかぎり、そのまま作ることになる。そうなると、そのおかしな度数のメガネで泣くことになるユーザ
ーがこれまでよりも増えることは明らかである。

→ 参考サイト  ユーザー本位の眼鏡処方を推進する会 http://ggm.jp/ugs/

6)幼少児のメガネの処方について

所轄の官庁における圧力団体の力関係からして、医師が認めないと眼鏡士の国家資格法制化は無理であるから、当然のことながら、その「眼鏡士法」においては、医師との妥協の内容が盛り込まれる。

昔に試案で示された「眼鏡士法案の第二次試案」には、下記の条文がある。

(引用はじめ)
(2)眼鏡士は医師の処方箋に基づき眼鏡を調製できる。
(3)眼鏡士は、眼鏡を調製するため、必要がある場合には、利用者の求めに応じ、厚生省令で定めるところにより、視力測定の補助を行なうことができる。
(引用おわり)

この場合は業務独占ではなく名称独占であるから、このような文言になっているのであるが、これが業務独占になると、おそらく次のように変わるだろう。

(岡本推察文はじめ)
(2)眼鏡士は医師の処方箋に基づき眼鏡を調製する。
(3)眼鏡士は、眼鏡を調製するため、必要がある場合には、利用者の求めに応じ、
厚生省令で定めるところにより、視力測定の補助を行なうことができる。ただし、(  )歳未満の幼少児については、医師の処方箋に基づかないで眼鏡を調製してはならない。
(岡本推察文おわり)

この中の(  )に入る数字はおそらく7~15のうちのどれかであろうが、そうなると、その年齢未満の子供の場合、たとえば、眼科で不要な偽近視の点眼治療でメガネを掛ける時期を遅らされて困る子がいたとしても、メガネ店で適切なメガネを作るということもできないし、単純な近視の眼の二度目三度目のメガネでも、一定の年齢までは眼科で処方してもらわないといけないといったことも生じてくる。

7)眼科へ送るケースが増える

上記の引用条文のすぐあとには、次の文言がある。

(引用はじめ)
(4)眼鏡士は、視力補正用レンズを直接眼球に装着する行為、薬剤の使用、眼疾のある者、未成年者等についての眼鏡の調製、その他医師が行なうのでなければ衛生上危害を生じるおそれのある行為をしてはならない。
(引用おわり)

いわゆる「顧客の目の眼疾患を眼鏡士が見逃すこと」は、眼鏡士は医師でないのだからあっても当然なのだが、それをしでかして顧客からクレームが来たりして、それが協会や監督官庁の耳にまでとどき、資格剥奪などということになる……ということをおそれて、資格制度発足以後は、検眼をしてホンの少しでも疑問を感じたら眼科へ、ということになり、その結果、眼疾患が見つかるのならまだしも、それはなくて単にいまいちの眼鏡処方箋を持って再度来店されるだけ、ということになるケースが、いままで以上に増えることは明らかであろう。

眼科側としては、眼鏡士の法制資格化によりメガネ店から眼科へ回ってくる患者(?)が
増えるのは歓迎だから、こういう点をしっかりと条文に入れておかないと、眼鏡士の法制
資格化を認めないだろう。

8)他店との技術的な差別化の宣伝が難しくなる。

もしも、国家資格が名称独占であり業務独占でなければ、「メガネは国家資格の眼鏡士がいる当店へ!」という宣伝ができるが、業務独占であれば、どの店にも最低一人は国家資格の眼鏡士がいるわけであるから、そんな差別化宣伝はできなくなる。

9)資格維持費用の高騰

自分が持つ資格を無くしたらもうアウトなのだから、強制的に入会させられる学会への会費、眼鏡士がみな所属する協会に払う会費、毎年開催される講習会の費用など、「なぜこんなに高いの?」と思っても文句を言えなくなる。それらの費用を販売するメガネの価格に転嫁することはまず無理であろう。

そして、眼鏡士というのは店の資格ではなく個人の資格なのだから、雇われ眼鏡士の場合にはそういう費用を店が持つこともなく、自分の給料からそれらの費用を負担することになるだろう。

【ML談義】 —————————————————

業務独占で良いのですか?

岡本
私の論考「眼鏡士が業務独占になると」をお目にかけました。
こういうのは皆で話し合ってこそ意義があると思います。
このMLには現在協会の認定眼鏡士で毎年協会に眼鏡士の会費を払っているかたも多いと思います。
そのかたがたは、この問題については、どういうご意見をお持ちでしょうか。

国家資格になってもよいし、ならなくてもよい。なるとしても、業務独占でもよいし、名称独占でもよい……と思っておられるのでしょうか。

たとえばもし、名称独占の国家資格になれば、眼鏡士でなくとも業務ができるのですから、資格を持っていれば「当店は国家資格の眼鏡士がいる店です」という宣伝ができるのです。

しかし、業務独占になってしまえば、メガネ屋はどこでも資格を持っているのですから、いまならできる「当店は認定眼鏡士のいる店です」という差別化宣伝ができなくなります。それでもよいのでしょうか。

浜田
先日、香川県のお客さんからメガネレンズの無料補償について問い合わせがありました。

眼科から「メガネ店なら無料で半年はレンズの交換をしてくれると聞いたけど……」ということでした。 どうやら、「無料で交換するのは当たり前」という思想が香川県にも波及しているようです。
これは、何を意味するかというと、眼科はこれまでよりもいっそう「メガネ屋隷属化方針」を推し進めようとしている、ということですよね。

もし、眼鏡士が業務独占になり、岡本さんが危惧していることが起こるとすれば、ますます隷属化傾向は強まると思います。
そうなれば、真面目に眼鏡の勉強をしていることがアホらしくなります。
すると、ますます日本の眼鏡業界は堕落してきます。

やはり、業務独占の公的資格になるのはマズイと思います。

岡本
補聴器技能士の場合には、管理耳鼻科を設定しないといけないそうです。
眼鏡士の場合も、国家資格になるときに「管理眼科」を決めないといけなくなるかもしれませんね。

古宮
私の記憶が間違っていたらごめんなさい。この手の問題は、S30年頃から浮き上がったり沈んだりで、ここに来て再び表面化しつつありますが、昔と違って社会環境が急速に変化してきている現在社会において方向性としては、法制資格化の時期が近づいて来ているかなと思います。

勿論、具体的には、もっとコンセンサスが当然必要でしょうし、国民の側におけるはっきりとした希望が多いという条件があるということも必要ですが。
それで私は業務独占には反対です。

岡本
ということは、古宮さんは国家資格にするのはよいとして、するのなら名称独占でいくべきだというご意見なのですね。

古宮
浜田さんのとこと同じパターンで、今年の夏前にある眼科処方箋でレンズのみ取替えで作成したメガネが、ユーザーから当店にクレームが有り、Rレンズ再処方箋で作り変えて、眼科医から電話が有って当店費用払いになった経緯が有りました。
「こんなアホな商いなら寝ている方がまだマシ」と思いました。

時代変化で国家資格は仕方ないにしても、「三方良し」での落としどころをどこにするかという今後のコンセンサスが必要だと思います。

岡本
古宮さんのそのご発言では、なぜ業務独占よりも名称独占の方が良いと思っておられるのかが、よくわかりません。

下記の問いにお答えをお願いします。

++++++++++++++++++++++++++++++++++

眼鏡士の国家資格化・アンケート

(1)眼鏡士を法律で裏付けられた国家資格にする方がよいでしょうか。

A(  )する方がよい。
B(  )しない方がよい。
C(  )どちらでもよい。

(2)上記のAかCを選んだかたに、おたずねします。
国家資格にするのなら、名称独占と業務独占とでは、どちらが良いでしょうか。

D(  )名称独占が良い。
E(  )業務独占が良い。
F(  )どちらでも良い。
G(  )その他

(3)上記の(1)と(2)へのご回答の理由をお願いします。

++++++++++++++++++++++++++++++++++

それと、時代の流れ、ということでしたら「官から民へ」「規制緩和」という流れもありますから、国家資格にする必要性も薄くなってきているとも言えます。 それで、眼科の処方箋で無料やり直しサービスの件ですが、それは貴店の近隣の眼科なので、そこに逆らうと今後の商売の上で不利、ということで、しぶしぶ相手の理不尽な要求を呑んだわけでしょうか。

それとも、遠くの眼科だったけれど、何らかの理由でその要求を受け入れたのでしょうか。そうであれば、なぜ受け入れたのかをおたずねします。

たいていの眼科では斜位矯正もできない

古宮
やはり心の隅に「眼科に逆らうと今後の商売上で不利」と、そのときは思いましたね。
内心本意では無いだけに残念でしたが。
なお、アンケートの回答としてはBです。理由は省略します。

青島
諸所の事情により法制化は難しいと思っておりましたので、あまり深く考えておりませんでした。
今回、岡本さんの私論を拝見して、そのとおりだと思いました。
眼鏡士としてお客さんのために努力するという仕事ができなくなりそうです。
眼科さんや厚生省のお役人に対して対等に話し合いができればとも思いますが、それは無理でしょうから、かえって身動きが取れない状態になってしまうでしょう。

また、余分な出費が多くなりそうです。今のままのほうがよさそうですね。

永光
私も「しない方がよい」です。自由に商売(検査)が出来なくなり、結果消費者の不利益になる。資格を維持するために法外な諸経費がかかる。天下りのポストが増えて、税金の無駄遣いが増える。

おそらく斜位矯正などは眼科処方以外禁止されてしまいます。かといって眼科が斜位矯正をすることはないです。先日も白内障を手術された当店のお客様が処方箋をご持参されましたが、それまで5△B.D.のメガネを使用していたにもかかわらず、P無しの処方箋でした。右度数もまるで違っていました。

完全矯正値は9△でしたが、7△が気持ちがよいとの事でしたのでそれで決定しました。 眼科処方の度数のメガネとかけ比べをしてもらいましたら、眼科処方の方では当然複視が生じますので、これ(眼科処方)はとても掛けられないし、これじゃ運転が出来ない、とのことでした。

もしこの人が安売り店や指定店に行ってしまっていたら悲劇の開演です。
国家資格が出来たら「メガネ暗黒時代」の始まりでしょう。
われわれは有益な情報を発信し続けて、判断は消費者に任せておけば良いです。

保田
協会の目論んでいる資格化は、問題が多すぎると思います。
当店では、子供の眼鏡を除いては、現在でも大部分の処方箋を書き換えることが多く、制約が多くなるとデメリットのほうが大きいです。
通常の眼鏡作製のための処方は、眼科ではせずに眼鏡店に任せるのがいちばんよいと思います。

どうしても資格化が必要ということであれば、名称独占にとどめるべきでしょう。

岡本
協会が国家資格化にあたって、なぜ名称独占ではなく業務独占を狙うことにしたのかということの背景としては、次のようなことが考えられます。

1)先進諸外国と肩を並べたい。
2)名称独占であれば、その御利益はいまの「社団法人の資格」とたいして変わらないので、

  2)-1 資格返上者が増えそうである。
2)-2 眼鏡学校への入学志望者が大幅に増えることはなさそうである。

3)ユーザーのために、低レベルの技術者による眼鏡調製をなくしたい。

この中の1)については、それぞれの国の事情があるし、いま資格制度がなくてもこの業界の技術レベルの低さが社会問題になっているということでもないし、業務独占資格になって、眼科のヘタな処方のままのメガネが増えるということになると、逆効果だと思います。

3)については、資格を持っていようがいまいが、どのみちオートレフ頼りの測定技術者が大半である現状が、国家資格になったからと言って、そう簡単に改善されるようには思えません。
ただ一つ確実に言えることは、業務独占の資格になれば、眼鏡学校の入学者が大幅に増えるし、その通信教育を受ける人も増えるということです。

耳鼻科医は補聴器に口出しをしない

福留
私も「しない方がよい」です。
私は認定補聴器技能者と医療用具修理業責任技術者の両方をもっています。
青島さんが言われたとおり結構経費がいりますが、福祉事務所と契約するためには資格が有利なように思います。

耳鼻科医は聴力検査をするだけで補聴器については全く口出ししません。
補聴器はメガネと違って機種の選定と納品した後での調整が本当の技術ということになります。

メガネの場合は、皆様が言われるとおり国家資格になれば不利になることの方が多いような気がします。

岡本
眼科医も、調節まひ剤を用いた屈折検査による眼鏡処方でなければ、耳鼻科医のように「検査だけして度数の処方はしない」ということにすればよいのです。
それならもめません。しかしこれまでの経緯からして、そうはならないでしょう。


私も「国家資格にはしない方がよい」です。
名称独占としてなら国家資格となっても良いとは思いますが、眼科医会の顔色を伺いながら法律が作られそうですし、協会の権力を増すだけで、実際には眼鏡技術者やユーザーに有益になることが少ないことになるのではないでしょうか。

乙部
私も「しない方がよい」です。眼科が眼鏡処方に絡んでくる限り、せいぜい名称独占にとどめておいたほうがいいと思います。

大川
私は名称独占で国家資格にするのがよいという意見です。
大切な視力を測定する人は国家資格が必要だとおもいます。現状の業界団体の資格のみというのは、一般の方にしてみれば驚きなのではないでしょうか。

ただし、あくまでも、医師の指示によりとか補助的な文面は入れずに国家資格があるのが良いと思います。
業務独占になると岡本さんが言うとおり、様々な問題がありそうです。
眼鏡士であれば、治療目的以外での視力測定が出来る程度の資格があるのが良いと思います。たとえば、ちょっと違うかもしれませんが、視能訓練士と眼鏡士:理容師と美容師のように。

岡本
医師の処方せんに基づきウンヌンの条文は名称独占であっても、国家資格になるのならば、必ず入ります。そうでないと眼科医が認めません。
眼科医が認めないと厚生労働省の管轄下の立法は無理なのです。

とすれば、大川さん、眼鏡士を国家資格にする方がよいでしょうか、しない方がよいでしょうか。
それと、眼鏡士なら普通の眼鏡処方はできるようにしないともちろんだめですし、そうなるでしょう。

それから、視能訓練士(ORT)は、眼鏡士とは違って医療機関において医師の指導監督下でないと検査も何もできないし、そこにおいて法的にORTがしてよいことは、看護師でもメガネ屋の出張検査員でも誰でもできるのです。

視能訓練士法においては業務の排他的独占性はなく、視能訓練士でないものはナニナニをしてはならない、という条文がないわけです。視能訓練士は名称独占の国家資格なのです。

大川
医師の処方せんに基づきウンヌンの条文が入るのであれば国家資格にはしないほうがよいと思います。
眼科医側と眼鏡業界との間で、日本人の得意な玉虫色の決着ができると良いと思うのですが……。

岡本
身分法を解釈の幅が広い条文で立法をすると、必ず行政の恣意的解釈による資格者イジメが生じます。 役人の生き甲斐は、権限の行使と出世なのです。

たとえば、眼科で医師の指示監督下でなら、それ自体に危険性がないことであれば誰が検査をしても法律には触れないはずなのに、保健所の役人は、医師かORTでないと検眼はダメ、と言います。 それにさからうと許認可の点などでいじめられるのです。

どう読んでも業務独占性のない視能訓練士法についても行政権力によってそういう勝手な解釈がなされている現状ですから、眼鏡士が法律によって何らかの点で拘束をうけると、以後、行政権力による理不尽なお節介が始まるのではないでしょうか。

協会はニンジンをぶら下げている

大川
色々と難しい問題が多いのですね。今まで、あまり深く考えていませんでしたが、勉強になりました。
それで、業務独占の国家資格は、私があえて反対をアピールしなくても実現は無理だと思います。
協会は国家資格というニンジンをぶら下げて認定眼鏡士を維持している感じです。
でも、認定眼鏡士は業界団体の資格ですが、無いよりは有った方が良いと思います。

自分はまだまだ勉強不足の身ですが、日眼研に入って勉強している方々の実力はたいしたものだと思いますし、日眼研公認の○○眼鏡士なんていうのはどうですか?

岡本
う~ん……、前に、全日本眼鏡技術コンテストというのをやって、優秀なかたを表彰したことはあったのですがね。

http://www.ggm.jp/ngk/news/examination.html

この解答は会誌57号に書いてあります。57号は、まだあります。
もしも、ユーザー本位の「眼鏡士」を設定するのであれば、筆記テストだけでなく、検眼とフィッティングの実技テストが必要だと思います。

協会の眼鏡士も、特S級を作って、SSかSSSの眼鏡士に実技テストをしてそれに合格したら特S級の眼鏡士、とする……というものいいかもしれませんね。
そうなれば、日眼研が眼鏡士の認定なんてしなくてもすみます。

業界での統一基準が必要

薬剤師A
眼鏡士の国家資格化について薬剤師の場合と比べていろいろ考えてみますと、 眼鏡士の業務独占化での課題点が2、3あるように思います。
まず、業務独占となると、業界内での仕事内容の統一基準が必要になると思い ます。

たとえば、薬剤師の場合は「基準薬局制度」というものが、きちんと整っています。
これは、日本薬剤師会が認定しており、薬局の機能、構造設備、処方せん応需体制(薬剤師が責任をもって処方せんを受け付ける体制)、一般用医薬品(OTC薬)の供給体制、薬歴管理・服薬指導・情報の収集及び提供等、ファクシミリや待合い設備の設置,休日夜間の対応や研修会への参加義務など、39の認定基準があり、全国どこであってもこの基準薬局に行けば、同じ品目の同じ剤形の薬を手に入れることができます。

調剤の仕方などに関しても、「日本薬局方」という統一基準にのって、どこの誰が調剤しても同じ薬が出来上がるようになっています。
また、薬価(厚労省が定めた薬の公定価格)も定められているため、どこの薬局で購入しても値段は同じであるため、薬局間の価格競争も起こりえません。
その結果、実際、世の中の大半のひとびとは当たり前のように、「どこの薬局で買っても一緒」と思っていると思います。

眼鏡士が業務独占の国家資格となったとすると、ユーザーの意識からすると、「どこでも眼鏡士がいるなら、どこのメガネ屋で買っても一緒」となっていくと思いますし、業務独占の国家資格とした場合に、どうしてもそうである必要も出てくると思います。

それで、実際に「どこで買っても一緒」であるようにすることは、メガネの場合には可能なのでしょうか?
仕事内容の統一基準を定めることは、現実的に可能なのでしょうか?

まず、処方箋のある場合に関しては、薬の場合には、医師の処方箋により成分あるいは品名が定められると、その通りに調剤すれば、薬剤師であればどこの誰が調剤しても全く同じ完成品になります。
何よりも「正確さ」 が求められるので、そこで薬剤師が個性や工夫を発揮することは必要ありません。

メガネの場合には、医師の処方箋により度数のデータが定められたからといって、それだけの情報では掛けられるメガネとしての完成品にはたどり着けず、枠選び、レンズ選び、加工、調整、それぞれに選択の幅があり、それら全てに統一基準を設けることは、現実には不可能ですし、さらに、そこが眼鏡士の個性や工夫の発揮の見せどころなので、統一基準など、設けるべきではないです。

仮に、「日本薬局方」のような、業界統一の「枠選び、レンズ選び、加工、調整」の基準が細かく定められた「日本眼鏡方」のような統一規則などができてしまうと、たいていの街中の薬剤師が「薬袋詰め師」としばしば揶揄されるように、たいていの眼鏡士は「メガネ組立士」になり下がって、岡本さんいわくの「協会や行政権力の下でお行儀よく」、なおかつ、医師の尻にしかれて、仕事を続けていくことになっていくと思います。

また、処方箋のない場合に関しては、薬剤師の場合には、「基準薬局制度」の認定基準の中に情報提供や接遇についてまでもがきちんと定められており

・一般用医薬品(OTC薬)販売に当たっては必要な情報提供を行い、医師の診療・検査等が必要と判断したときは、速やかに受診勧奨する。

という項目もあり、基準薬局に勤務する薬剤師には、広義での 「疾患発見の義務」もあります。

このために、薬剤師は薬の知識のみならず、各種疾病に関する勉強のための講習会で多くの時間を割かれていますし、岡本さんの論考にもありますように、実際、現場で使える免許(ペーパー免許でなく)を維持していくためには、実際、その講習会の費用の個人負担は、とても大きいです。

また、一般医薬品(OTC薬)の場合には、数日間試してみて効かない場合には、上のような受診勧奨をする流れをとるのですが、これは、言ってみれば、薬剤師は自分自身では目の前の人にその薬で「合っているか」ということを、科学的に調べる手段をもっていないので仕方がないということがあるからです。

疾病の有無はおろか、今、自分がおすすめしたり、選んであげたりした、その一般医薬品(OTC薬)が的確かどうかも、医師に検査して診てもらわないとわからないから、仕方がない、ということです。

一方、メガネの場合には、眼鏡士が検眼してみて「おかしいな」と思った時点で受診勧奨をすることになるのでしょうが、眼鏡士は薬剤師と違い、医師に頼らなくても、自分自身で、目の前の人のそのメガネが「合っているか」ということを、調べる手段を持っています。

疾病の有無の判断は無理にしても、少なくとも自分でお勧めしたり選んであげたりした、そのメガネが的確なものかどうかは、医師に見てもらうまでもなく、眼鏡士は自分でわかって販売することができます。

受診勧奨が義務化された場合、岡本さんがおっしゃるように「眼科から単にいまいちの眼鏡処方箋を持って再度来店されるだけ、ということになるケース」も増えるでしょうし、それは、眼鏡士が「自分の本意でない度数でメガネを作らせられる」ケースが増えて、やはり、この「受診勧奨が義務化」も、自らの仕事の幅を狭め、医師の尻にしかれに行くようなものだと思います。

いまよりも激しい価格競争が

薬剤師A
また、先ほど上で述べたように、薬には薬価(厚労省が定めた薬の公定価格)が定められているため、どこの薬局で購入しても値段は同じであるため、薬局間の価格競争も起こりえませんが、メガネの場合にはおそらく、そういった公定価格を定めることはできないでしょうから、岡本さんもおっしゃっているように、業務独占資格化により業務内容においての他店との差別化がしにくくなると、今よりもより、単純な価格競争の激化につながる懸念があると思います。

さらに、もう一つの懸念は、名称独占資格であるORTらの存在です。
眼科内でのORTの立場や技術レベルがはっきりしないなかで、そこで、眼鏡士を業務独占の国家資格にすると余計に厄介な事態が生じると思います。

薬の場合には、街中ドラッグストアであれ、調剤薬局であれ、病院内であれ、もちろん、医師も法的には処方から調剤まで全てやっても問題ないのですが、実際の現場では、医師は処方まで、調剤するのはほぼ、薬剤師のみです。

ですので、「医薬分業」という制度で、有る意味、うまく仕事の領域の「住み分け」ができており、医師(歯科医師)と薬剤師の二人の専門家により、医薬品の使用を二重にチェックし、患者さん一人ひとりに処方された薬の効果をお互いの立場から評価するということで、患者さんにメリットもあるというわけです。
 (ただし実際は、「おとなしい」 薬剤師がほとんどですが……)

この住み分けがうまくいっているからこそ、業務独占の医師と業務独占の薬剤師がそこそこうまくやっているわけです。

一方で、メガネの場合には、現に、実際の現場で処方・調製にたずさわっている人が、眼鏡士、医師、ORT、看護師、OMA……といろいろいて、眼科では無資格者による検眼もされています。
医師も処方し、眼鏡士も実際の現場で処方しているわけですよね。

 治療用のメガネはともかく、それ以外のメガネの処方も今後、相変わらず複数の立場の資格者、さらには無資格者が行えるなかでの、眼鏡士の業務独占国家資格化は、結果的にはあまり、権限のある国家資格とはならないと思います。

 ORTや眼科での眼鏡処方のレベルが現状のままであったり、眼科での眼鏡処方は、「医師の監督、指示」があれば、法的には無資格者でもやりたい放題のままで、今後も適当な処方箋を切り続け、しかし、業務独占国家資格となってしまった眼鏡士には、その処方箋は「絶対」のものとなってしまい、それに縛りを受け続ける未来が待っているだけな気がします。

現段階での業務独占化は、損です。勿体ないだけです。
無資格者の検眼による眼科処方箋に縛られる、業務独占(ふたを開けてみると現実は、独占もしそこなうかも?)国家資格の眼鏡士……なんだかとてもヘンです。

まずは、全国の眼科の眼鏡処方のレベルを上げるか(屈折検査に強いORTやコメディカルの拡充やその配置の義務化)、眼科が治療用メガネ以外の眼鏡処方を辞めてしまうか……せめて、そのうちのいずれかが達成されてから、あらためて眼鏡士の業務独占国家資格化を検討するのが良いのに、と思います。

岡本
眼科の発行する眼鏡処方箋は、薬の処方箋とは違って、いまのところ、どういう法律にも、それについての記述がなく、いわば、あれは法的な裏付けがないものなのです。
だからこそ、我々がそれを見ながら、場合によってはそれとは違う度数でメガネを作っても、少なくとも「ナニ法の第○○条に抵触する」ということがなく、法的な罰則を科せられるということがないのです。

ところが、名称独占にしろ、業務独占にしろ、眼鏡士を法的な裏付け持つ国家資格にしようとすると、どうしても眼科の発行する眼鏡処方箋のことを入れざるを得ないわけで、そうなると、我が国の開闢以来、法律に登場することがなかった「眼鏡処方箋」が法律に書かれてしまって、法的な裏付けを持つものとなってしまいます。

なかには、「そうなっても別にナニも困らないさ。うちはどっちみち誰にでも処方箋の通りに作っているのだから」とおっしゃるかたもおられるでしょう。
しかし、そういうかたは、お客様の満足よりも、自店を商売的に守るということを優先する、事なかれ主義の眼鏡屋だ、と私は言いたいです。

眼鏡士の国家資格化が成ったとして、それで眼科の眼鏡処方のレベルがぐんと上がるということは考えらません。ですので、眼科の処方箋に法的裏付けを与えてもよいから、とにかく眼鏡士の法制資格化を実現したいという人がいるとすれば、その人には「ユーザー本位」の発想も姿勢も私には感じられないのです。

投稿日:2020年10月15日 更新日:

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