発売中止になる累進レンズ〜【眼鏡技術者のナマの声】
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[ML対談] 発売中止になる累進レンズ
                                     
浜田 清 × 岡本隆博

 眼科からのクレームで

  浜田 昨日来たA社の営業マンが「あの累進レンズは発売中止にします、眼科から処方度
      とメーター度の違いでクレームがありましたので」と言っていました。

  岡本 へえ〜、あのA社でも眼科には弱いのでしょうか。
      「このレンズの度数は視線の角度で測ってもらわないといけません。その測りかた
      は……」などという弁明は通用しないのでしょうかね。

      「難しいことを言うな!そんなややこしいレンズはいらん。そんならB社に替える!」
      とか言われたら元も子もないので、それでレンズメーターで普通に度数が出るタイ
      プに替えるのでしょうか?

      やはり、泣く子とお得意先には勝てない、ということなんでしょうか。

  浜田 ホントのところはどうなんでしょう。
      私は眼科から累進のクレームは一度も受けたことないし、もしクレームがあったとし
      ても説明すれば済むように思うのですが。
      眼科医がそんな説明を聞く耳を持たないんでしょうか。

      そのメーカーの今度のCレンズは加入度にかかわらず、累進帯長は14?で一定し
      ています。
      このメーカーは前には加入度別累進帯長設計がいいと言ってたのですが……。
      その前には累進帯の長さが違う3つのタイプのうちから選ぶのを勧めていました。
      いつも新製品が出るたび「前のより設計が良くなっていますよ」といっておられま
      すが。

  岡本 加入度が強くなれば累進帯を短くするというのを初めてやったのは、私の記憶では
      E社です。

      その逆にかなり昔にD社がはじめて自社設計の累進を出したときのレンズは加入度
      が少ないほど累進部の長さが短かったのです。

      その理由は「加入度が強くなるとゆれゆがみが増えるので、それを減らす為に累進
      部を長くした」というわけですが、やはりあまり評判は良くなかったようです。

      それはともかく、加入度が強くなるほど累進部の長さが短くなるということに関して
      言いますと、装用テストのときに多くのテストレンズの中から、その人に調製する、
      そのものズバリの種類のテストレンズで見てもらって決めるようにすれば、必ずしも
      そういう設計になっていなくともかまわないのではないかと思います。

      いろいろなレンズの中からその人にとって最終的にもっとも見やすく感じるのを選ん
      でもらえるわけですから。

      しかし、眼科の多くがやっているように、累進のテストレンズは使わず、遠見と近見
      を別々に測って、その差を加入度とする、というやりかたなら、E社方式の方がいい
      のかもしれません。
      その方が、加入度の強い人の場合の「あごをうんと上げなくては本が読めない」と
      いう苦情は少ないのではないかと思います。

      ただし、E社方式の場合は、不同視などで左右の加入度を替えたときに心配です。
      たとえば、不同視で遠用度数はマイナス強度側を余分に弱くしてあるという場合、
      たいていはそちらの方が加入度は少なくてすむわけです。

      そうすると累進帯の長さが左右で違ってくるでしょうから、近見のときに大丈夫かな
      と不安になります。
      そういう時には累進帯の長さは一定にしてあるレンズの方が安心です。

  浜田 なるほど。
      以前、眼科処方単焦点レンズで、仕上がりメガネを眼科に検品持参した方が「度数
      が違っているけど、まあ、いいです」と看護婦さんに言われたと、ウチに「これはどう
      いうことでしょう」と来店されたことがあります。

      もちろん、度数が違うということはないんですが、許容範囲内の誤差はありました。
      (0.12ぐらいだったよう)

      それで、お客様に「測り方や測る機械によっても多少違いが出ます」と説明したん
      ですが、私に対しても、度数が違うのにまあいいですといった眼科に対しても、いま
      ひとつ釈然としない様子でした。
      (私はあとで眼科に抗議っぽい手紙を送りました)


 何か言われるかな?

  岡本 これは眼科で何か言われるかな、と予想できる時があります。
      たとえば単性乱視のPDなんか、眼科ではたいていワケがわからないでしょう。
      また、二重焦点では近用小玉の位置を左右別に正確に作ると、遠用PDは処方箋
      とは合わなくなります。

      眼科ではこのメガネに対してちゃんと評価してくれないのではないかと予想できる
      ときは、

      1.その眼科へ今後もう行くつもりがないのなら、眼科へ検査に持って行かせない。
        「それは一応、検査に持ってきなさいとしておかないと、メガネ屋の中にはいい
        加減に作るところがありますから、そう書いてあるだけです。たいていのかたは
        そんなのいちいち持って行かれません。大丈夫です。よく見えてるでしょ」

      2.眼科へ持っていくとおっしゃるなら、面倒だけど調製報告書を出しておかないと、
        どんなこ とを言われるかわかりません。
       (その場合、報告書をお客さんに渡しても、眼科の人に見せてくれるとは限りませ
        んので、郵送かFAXの方がいいでしょう)

      眼科で検査して何かよくないことを言って、それをお客さんがこちらに言ってくれれ
      ばまだ釈明 もできるのですが、言わなければ濡衣を着せられたままになってしま
      います。


 評価できないのに設計?

  
浜田 単焦点でもそんなこともあるのに、累進だと、どう説明しているんでしょう。
      私んとこで作った累進レンズを持参された患者さんに何て言ってるんでしょうか。
      「ユラユラしてるけどまあいいでしょう」とか言って合格にしてくれてるのでしょうか。
      (^_^)

  岡本 眼科では、累進眼鏡の出来上り検査は確実にはできないことが多いようで、患者
      さんから何か不満がかければ、おそらく何も言わないんじゃないでしょうか。

      かなり以前のことですが、私の知り合いのあるメガネ屋さんは「眼科の処方箋を持っ
      てきた人には、バイフォーカルよりも累進を勧める。その方が光学中心の位置が
      どうこうと言われないので」と言ってました。

      ただし逆に、別のかたからは、プリズムシニングがあることがわからなかったり、
      遠用度数の測定位置を間違えたりして、あるいは累進だということがわからずに、
      レンズメーターでいい加減に測って「このメガネは非常に不正確だ」というような
      評価をくだされてしまうこともあると聞きました。


                      ○

  岡本 出来上りを評価できない人が処方するということ自体が、そもそもおかしいのです。
      例えば、設計者が家を造るのをずっと観察していて、できた時点で、ちゃんと設計
      どおりできたかどうかわからない、なんてことは考えられません。

      医師(またはORT)にしか処方できない眼鏡以外は医師(眼科)では処方しない
      のが一番です。

      また、メガネ屋から眼科へ出張検眼に行ってる場合には、眼鏡処方のときには……
      「目の度数と視力の検査は医療の一環ですのでここでやりましたが、あなたの眼鏡
      処方は病気とは関係のないことですので医療ではなく、従ってここではやりません。

      それでメガネの技術はあまり気にならないのでしたら、どこでもお好きなメガネ屋
      さんへ行っていただいて、そこでメガネの度数を決めてもらってください。あとは
      その店の責任です。

      しかし、技術の良いメガネをご希望でしたら、私がいるメガネの○○へおこしくだ
      さい」とやればいいのです。

      そうすれば、せっかく自分の高度な技術で処方した成果を書いた処方箋を他の
      メガネ屋にみすみす利用されてしまうということもないわけです。

      医師でしか処方できない特殊な眼鏡を除いてはすべて眼鏡店で処方するという
      方法に替えれば眼科の眼鏡処方箋を巡るもめごとは100%近く解消するのです。

      そして、そのもめ事がなくなれば、眼科と眼鏡店とはホントに気持ちよく協力体制を
      とれるようになるのです。

      個々の眼科と眼鏡店が「仲良く」するだけではダメです。そんなのは100年前から
      やってることですが、全体が良くなる兆しはまったくありません。
      このままではいつまでたっても同じことです。

  浜田 ホントにその通りです。
      普通の眼鏡は眼鏡店で処方すれば、どれだけ国民の利益になるか。
      また、困っている人がどれだけ救われるか。
      今のままのお寒い事情では、不幸な人が一向に減りません。

      私も眼科と協力体制をとりたいのですが、医者のプライドが邪魔をするのか、私を
      上手に使ってくれないんです。

      田舎だから、遠くの名医よりも近くの並医者でいいと思っているのに、眼科医が私と
      仲良くしてくれる兆しはありません。

      処方箋のとおりにきっちり作っていますよということで、調製報告書も必ずその眼科
      に送っているのに、「ご苦労さま」の一言もないんです。(調製報告書なんて、生意
      気なんでしょうか)
      せめて、「上手に仕上がっています」とか言ってくれたら、血が出るまで働くのに…。

      実は、だいぶ以前には、町内に素晴らしい先生がいたんです。その先生は私を
      対等に接してくれました。この先生と共同作業で15△のフレネル膜プリズムを作っ
      たこともありました。

      でもいい先生はすぐ田舎を離れてしまう……残るのはイマにの先生ばかり。


 求められれば応えるのが当然?

  岡本 それで、眼鏡処方に関して言えば、眼科医の中には「患者が眼鏡処方を求める
      限りにおいてはその希望に応えるのが当然」という意見もあるかもしれません。

      それは、自分を頼りにしてくれる患者の期待に応えたいという建前や素朴な感情の
      他に、門前払いにするとみすみすの収入を逃がすという本音もあるかもしれません。
      開業眼科医の競合関係も年々厳しくなってきているようですし……。

      病院勤務の医師ではなく、開業医の場合は収入増のためには、病気の診療とは
      言えないこと (眼鏡処方)までやる、ということも分らぬでもありません。

      しかし、開業医も医療法人として税制の優遇を受けている公益法人のアルジです。
      そこには商業従事者とは違った倫理性が要求されるはずです。

      なんと言っても、医師は国家資格で保護され特権を持った専門職なのですから。
      専門職というのは公益のために尽くす存在でなければなりません。
      もし金儲けが目的で医師になったのなら、そういう医師にはただちに廃業してもらい
      たいです。

      ただし、一生懸命本来の職務に没頭した結果お金がたまったというのなら、それは
      なんら恥ずかしいことではありません。
      それは宗教改革者カルバンの論理そのものなのです。

      なお、カルヴァニズムが近代資本主義の成立に果たした役割を発見して詳述した、
      あのマックスウェーバーの名著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の
      一節では、経済第一の現代人を指して、「精神なき享楽人」「魂なき専門家」と評さ
      れており、近代文明の没落が暗示されています。

      また、ウェーバーは社会科学的なことを論じるには、まず論者の立場を明らかにせ
      ねばならないと言っています。

      私は「まじめな眼鏡技術者と快適な眼鏡を求めるユーザーの利益(経済的なことに
      とどまらない)を擁護し増す」という立場から、これに関して論じているわけです。


 調製連絡書でほとんど解決

  私と野矢氏が書いた『眼科処方箋百年の呪縛を解く』に、眼科医が眼鏡店に宛てて出す
  「眼鏡調製連絡書」のことを私は書いておいたのですが、眼鏡処方を求めて来院する人
  を眼科は門前払いをする必要はないのです。

  しかるべき諸検査をして「貴方は目の病気はないので眼鏡はメガネ店で合わせてもらえば
  いいのです」と言ってもよいし、それではせっかく来てくれた人に申し訳ないというので
  あれば、どのみち屈折検査はやるわけですから、参考までに、と言って完全矯正値(度数
  と視力)を書いたもの患者に渡しておけばいいのです。

  あとはそれを参考にして眼鏡店で処方度数を決めればいいわけです。
  そうすれば、よほどヘタなところでないかぎり、むちゃくちゃな度数のメガネは作らないで
  しょうし、できたメガネの見え具合で眼科と眼鏡店の間で患者が困るといったことはない
  わけです。(責任の一元化)

  「そのメガネで見え具合が不満でメガネ店に言ってもらちがあかないという場合にはまた
  いらっしゃい、どこがおかしいのか見てあげます」と言うのもいいでしょう。
  それで苦情がきても、自分が処方したわけではなく評論家的に見るわけですから、プレッ
  シャーはないわけです。

  併設眼鏡店を持つ眼科なら、そこの店の技術者の腕前がよくわかっていますから、「しっ
  かりしたメガネがほしいのなら隣のメガネ店をすすめます」と言えばいいわけです。

  また、難しい度数のお客さんだと眼科医に処方を任してしまおうという眼鏡屋もいるでしょう
  が、そういう場合もやはり、諸検査をした上で、眼鏡処方箋ではなく、連絡書を渡せば
  いいのです。

  処方を眼科でやらなければ、何かあったときに見え方に関する責任の所在があいまいで
  なく、「いったいどっちの言うことがホントなんだ」とユーザーが困惑するということもなくなり
  ます。

  また、眼鏡店でも測ってみて、眼科で出た屈折度数や視力と大幅に違うといった場合に、
  処方に対して拙速となることを免れ得るというメリットもあります。

  眼科で普通の眼鏡を処方される場合には、再処方の場合にその費用をどうするか、と
  いう問題も起こってきます。

  それを解決するために特定の店を指定して「ここで作ればあとは面倒見る。よそで作れば
  知らん」というやりかたをされている眼科もあるようです。

  その方法は全面的に悪い、利点は何もない、とは言いませんが、公益法人(医療法人)で
  ある眼科が特定の商業施設を指定するにはよほどの強い理由が必要でしょうし、場合に
  よっては痛くもない腹を探られて自ら専門職の信頼感を低めることにもなりかねません。

  それから、中には、安売りの眼鏡店でメガネを買いたいが、処方は眼科の方が信用でき
  そうだからとか、店の方が「眼科の処方箋を持ってきてくれ」と言ったとか、そういうので
  眼科処方を求めてくる人もいるようですが、もちろんその場合も、諸検査をして連絡書を
  発行することで解決できます。処方度数への責任は眼鏡店にいきます。

  ですから、忙しい所をメガネのクレームという面倒なことで手間をとられるということもなく
  なり、眼科本来の診療に専念できるわけです。

  眼科が普通の眼鏡の処方を断ることは、諸検査を断るのとは違って、決して医療の放棄
  ではないのです。眼鏡で病気を治療するのではないのですから。

  病理的な所見を勘案して、医師でしかなしえない処方であると判断されれば眼科で処方
  されるべきだし、そうでなければ「連絡書」にして、処方は眼鏡店に委ねるのがいいと思い
  ます。

  また、眼鏡店で目を測ってみて、何かおかしいと思って眼科に対してデータを添えてちゃ
  んとして紹介をする眼鏡店は、けっこう多いと思います。

  私なんかも矯正視力不良の場合には、必ずそれまでの何回かのデータ(眼鏡調製度数
  ではなく完全矯正値)をお客さんに渡しています。

  また、その場合に眼科でたとえ他店を指定せずとも、とにかく処方までされてしまうと
  「こりゃ、眼科へ行かしたのが間違いだった」と後悔することもあるわけです。
  持参された処方箋の度数がいまいちという場合です。その場合も連絡書で十分なのです。


 共通領域が問題を生む

  眼科の屈折検査は他の検査と同様に医療の(診断の)一環である。しかし、眼鏡処方は
  一部の特殊なもの以外は医療ではない。
  その大事なところを十分に認識し、それに沿ったこと(眼科では特殊なもの以外は眼鏡
  処方箋は発行しない)を実行すれば、眼鏡処方箋を巡る、もろもろの問題はほとんど解決
  するのです。

  これはユーザーにとっても、よい結果となるし、まじめな眼科やまじめな眼鏡店にとっても、
  よいやりかただと思います。

  私の提唱していることを実行したら困るのは、

   1.処方箋を発行することにより指定店からのお礼をアテにしている眼科
   2.面倒な処方は眼科に任せて、自分は楽して儲けようという眼鏡店、
   3.そして、眼科処方箋を持っていって測定はヘタな安売り店でもそこそこの処方レベル
     のメガネを 買おうなんて思っているユーザー、
                                    ……というところでしょうか。

  もっとも、1の場合は、調製連絡書で指定してお礼も継続するという方法もあるわけです。
  ただ、それだと、作ったメガネでうまくいかない場合の眼科での再検査再処方の手間は
  なくなるので、お礼は少なくなるかもしれませんけれど。

  また、3の場合は、今のやり方でも調製結果が思わしくなければ、ユーザーの自業自得に
  なるわけですが。


                   ●

  眼鏡店での眼鏡処方は結果責任が問われます。
  逆に眼科で「医療」という認識で眼鏡処方を行なえば結果責任からはフリーになります。

  これは実際には調製した眼鏡店で面倒を見るとかいうことがあったとしても、原理的にそう
  だということです。

  すると、眼科の処方により作ったメガネの「結果」に対しては誰も責任を負わないでいこと
  になってしまうわけです。それではユーザーが困ります。


                 ●

  眼鏡技術者の本分は、快適なメガネを測り、作り、提供すること。
  眼科医の本分は、眼疾患に関して的確な診療をすること。

  普通のメガネの処方という職務を共通領域としている現在の状況がもろもろの齟齬を生む
  結果につながっているのです。

  もしも隣の家との間に、どちらの所有とも言えない、どちらが入ってもよい庭があったら、
  隣の家とうまくいくわけがないのです。

  屈折検査は、眼科でも行ない、眼鏡店でも行なっており、一見共通しているように思われ
  るかもしれませんが、その目的が違うので、どちらでも行なっていても別に問題は起こらな
  いわけです。

  ただし、眼鏡処方となると、やってることも目的も(その細かな点やレベルは別として)同じ
  ですから、それで種々の問題が生じてくるわけです。

                                 (平成13年7月)



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