世間のメガネ店のフィッティングの欠点とは

                                 岡本隆博

横田進氏は、この業界では、フィッティングの実技講師として、その旺盛な講習活動で有名である。
その横田氏に対して、私はこれまでに何度か技術的な疑問点についてお尋ねしたのだが、いずれの場合も「建設的な議論にならない」などの理由で回答をもらえなかった。
しかし、その名声が高まれば高まるほど、それに伴う責任も重くなるのである。特にその人が教えることの内容においては。

そして、業界誌における同氏の連載講座を見る限りにおいては、私は依然として大きな不満を持たざるを得ない。
これまでに下記の質問2、3、4の点については、何度か同氏に尋ねたこともあるが、いまだに納得できる返答をもらえていない。

ゆえに、ここに改めて、私は同氏に以下の公開質問をする次第である。

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埼玉県さいたま市・(株)さいたま眼鏡技術研究所御中
横田 進様

                        2014.10.31 岡本隆博

貴殿におかれましては、全国的なフィッティング教育に日々ご尽力されておりますことと
存じます。
貴殿が月刊『THE EYES』(2014.10)に書かれた「横田流フィッティング術・第105回」の記事の中の、疑問点についてお尋ねします。

(下記の質問文の中の《 》内の文は、当該記事から原文のまま引用したものです)

質問1
はじめの方で《フロントが少し順そりしていますので、180度になるようにしましょう》として、はじめについていたわずかな順そりをそのように調整をされましたが、その理由が書かれていません。

私は、この「そり角の修正」はしないほうがよかったのではないかと思うのですが、
その理由を以下に述べます。

フレームのそり角とレンズの光軸の関係については、リムにカーブがあり、レンズの光学中心が玉型の水平中央に位置するのでなければ、「リムのそり角が180度であれば、そこに入っているレンズの光軸は互いに平行」ということにはなりません。

たとえば、リムカーブが4で、やげんを前ならいでつけて、光学中心が玉型の水平中央から4mm鼻側に寄りますと、(このお子さんの正面写真を見ますと、おそらく46□15
くらいの枠で、PDが54くらいなのでしょうか、瞳孔中心がそのくらい鼻側に寄っています)

→ リムを184度(やや順そり)にしたら、左右の光軸が平行になるわけですし、

→ 枠を180度の「そりなし」にすると、レンズの光軸は左右それぞれ2度ほど輻輳してしまいます。

また、順そりの枠に入れたレンズの光軸が若干開散していたとしても、度数が強度でなければ、

・光軸がやや開散して平行視線と斜交することによる乱視発生などの光学的デメリットよりも、

・スタイル性や、耳側視野の増大、レンズ裏面の反射の減少などのメリットの方が 大きいわけです。

ですから、このお子さんのメガネに初めについていたわずかな順そり(左右それぞれに5度以下)は、修正しないほうがかえって良かったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

質問2
クリングスパッドを、初めについていた「下広型」からいつもの「上広型」に取替えられ
ましたが、下記の理由で元ままの方がよかったと私は思いますが、いかがでしょうか。

(1)写真を見たら、パッドの回転中心から下端までの長さは、どちらもほとんど同じである。

(2)上広型よりも下広型のほうが、「上部が横に狭いので目頭のうるささが減る」
「重さをより受ける下半分が広い」(パッドの上部よりも下部の方がより重みが来る
ということの理由を貴殿はご存知ですよね)

(3)初めのパッドは金属芯だが、替えたあとのパッドはプラスチック芯なので、突起部が折れやすい。

質問3
P.94の左のモダン調整の仕上がり写真を見ますと、耳の付け根の落ち込み角よりも、モダンの先の下向き角のほうがやや強いようで、そのせいか、耳の付け根の最もうしろ部にモダンが後ろから前にやや食い込んでいるようにも見えます。

私の経験では、こういう角度にまでモダンの先を下に曲げなくとも、耳の付け根の落ち込み角よりもモダン先の下向き角をわずかにゆるくして、横からの押さえ(抱き込み)を適正にすると、めったにずり落ちないものです。

ここまでモダン先を下に曲げることには、力学的に特にメリットがなく、耳の付け根が痛くなるおそれが生じるというデメリットだけがあるように思うのですが、いかがでしょうか。

【参考】 モダンは、耳に当たる方向よりも、頭に当たる方向のほうが幅広ですよね。もしも、耳に引っ掛けるのが目的でモダンの先が下に曲がっているのであれば、耳に当たる方向の方が幅広にしてあるはずですが。

質問4
写真を見る限り、このお子さんの耳のうしろの頭部の全体形状は、ごく緩やかで単調なへこみ型ですが、P.93の右段の上からふたつめの、モダン調整後の写真(特に、モダンの屈折点から先の部分の影)を見ますと、モダンの屈折点から先を上から見た形は、耳のうしろにまったく凹みがないの場合に適合するような直線状になっています。

これだと、このお子さんの場合は、モダンの屈折点から先の、その中央部分において耳のうしろを横から押す力があまりかからないので、適切とは言えないように思うのですが、いかがでしょうか。

質問5
私は40年近くメガネ店をやっていますが、他店調整のメガネで、耳のうしろの凹凸形状
にうまく合わせてあるのをめったに見ないのです。

拙著『眼鏡処方の実際手法』
http://www.ggm.jp/labo/books.html

の記事、「具合の悪いフィッティングの8割はこれで解決する」にも書いたのですが、

世間のメガネ屋さんのフィッティングにおける「腕先調整」において、もっともできていないのは、貴殿がいつも力説しておられる「耳の付け根の落ち込み角にモダンの下向き角を合わせる」ことではなくて、耳の後ろの凹凸形状にモダンの(上から見た)曲げ方を合わせる、ことなのです。

しかるに、そのことについて、貴殿はこの連載記事では常にスルーしておられるように思えるのですが、その理由は何でしょうか。

質問6
P.98の左段の一番下に腕の調整後の写真があり、《テンプルの形状は、やや逆そりになりました》としてあります。

その写真では上から見た腕はほぼ直線で丁番から腕先に向かって広がっていますが、これだと場合によっては、もみ上げ部をモダンで両横から押さえてしまいがちなのです。

そして、その写真の上には《モダンの合口あたりから、頭の側面に接地し始めています》
としてあります。

しかし、こういう形状にすると、ややもすれば、もみ上げ部を腕(モダン)が圧迫する恐れがあります。
腕がこめかみを圧迫するのは論外ですが、もみ上げ部も、できれば接触しないのがよく、
やむを得ずに接触するのはしかたがないけれど、「圧迫はダメ」なのですが、

貴殿の説明だと、それがわかりにくいし、この腕の形状写真を見るとそのように貴殿が考えておられないのかもしれず、もしかして、もみ上げは少し押さえるのが力学的によい、というお考えなのかもしれません。

【しかし、もみ上げ部はそこを水平断面で見ると決して頭部の奥へ(後ろのほうへ)すぼ
まってはいません。 ということは、そこを押さえてもメガネが前にずってくるのを防ぐ力にはならないということです。】A

ですから、もみ上げ部を押さえるのは、うっとしいだけで、何のメリットもないわけです。

* 私は他店購入の枠の調整で、こめかみだけでなく、もみ上げ部の圧迫を除いて喜ばれることがときどきあります。

ゆえに、メガネの腕はシャルマンのラインアートのように、緩やかな湾曲を持つほうが、こめかみはもとより、もみ上げ部の接触や圧迫をしないですませやすいのです。

貴殿は【 】Aのことをわかっておいでなのでしょうか。

* この「もみ上げへの圧迫」も、世間のメガネ屋さんのフィッティングでよく見られる問題点です。

質問7
貴殿はほとんどの場合に、パッドの正面高さを下に移動なさいます。

それ自体は悪くないのですが、パッドの奥行き位置(レンズ面とパッドの奥行き距離)をそのままにしてパッドの正面位置を下げますと、パッドの当たりところが、顔のより前方に変わりますので、頂間距離が伸びます。

そうすると光学的に不利になることが多く、そのパッドの正面高さのままで頂間距離を短かめに(あるいは普通に)しようとしますと、パッドをレンズにかなり接近させることに
なります。

そうしますと、スネーク足(国産品の場合、それがほとんど)の場合は、レンズ裏面を拭くときに、クリングスがつっかえてその鼻側の一部を拭くことができなくなります。

もっとも、そういう「拭けなくなる」事態は、パッドの正面高さにかかわらず、スネーク足のパッドがレンズに近づくと生じる事態なのですが、パッドの正面高さを低くすればするほど、頂間距離を長くしたくなければ、パッドを、よりレンズに近づけざるを得なくなるわけで、そうすると、その「拭けなくなる」事態が生じる確率も高くなってくるわけです。

このことについて貴殿は、フィッティング技術の受講者のかたがたに何か対策を説明されているのでしょうか。

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 * なお、下記の公開質問もご参考までにご覧いただければ幸いです。

めがねの堀田 堀田浩文様
http://www.ggm.jp/gkkk/

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投稿日:2020年10月13日 更新日:

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